Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Fat Chance

2007-05-06 | SSW
■Fat Chance / Fat Chance■

 アナログ・レコードの中に時々、ビニールの厚さが薄くて、ペラペラに近い触感を持つものがあります。 自主制作のようなレコードであれば理由が分からなくもないのですが、時々メジャーレーベルのアルバムにもそんなディスクがあったりします。
 今日、取り上げた Fat Chance もそんな 1枚。 1972 年に RCA からリリースされたものです。 当時の RCA は、このような薄型のディスクを積極的に採用していましたが、調べてみたところ、RCA はこの薄型ディスクを、新技術として開発・採用し、それを 「dynaflex」 として商標登録していたのです。 そこまで力を入れて薄くする必要があったのでしょうか? 音質が向上しているとは思えません。 どうやら RCA が「dynaflex」に力を入れた背景には、オイルショックによる塩化ビニールの高騰があったと考えるのが妥当でしょう。

 さて、肝心の Fat Chance に話を戻します。 このバンドは Steve EatonBill LaBounty が在籍していたことで知られています。 この 2人は、1970 年代後半から 80 年代初期にかけて名盤を残していることから、それらを好きな人から見れば、夢のスーパーバンドとも言えるでしょう。 しかしながら、サウンド的にはメンバーにホーンが二人いることからも分かるように、当時流行していたブラス・ロック的な内容となっており、シンガーソングライターのファンにお薦めできる内容ではありません。 Steve Eaton や Bill LaBounty の熱心なファンの方ならば彼らのルーツを知るという意味において一度は聴いておきたいアルバム、と言える程度です。 RCA にありがちな未 CD 化作品でもあります。

 いつもであれば曲ごとのコメントをするところですが、ブラスロックやファンク、ブギ調の曲が多いので、今日は省略します。 その代わりに、Steve Eaton と Bill LaBounty の書いた曲をそれぞれ 1曲取り上げてみました。 
 まずは、Steve Eaton のナンバーで、A 面ラストを飾る「Hello Misery」。 この曲は、ホーンが入らないこともあって、後のふたりのサウンドに最も近い曲といえるかもしれません。 ゆったりしたワルツに女性コーラスが優しく重なります。 
 Bill LaBounty の曲で 1曲を選べといわれたら、「It’s A Crime」。 正確には、ベースの Dale Borge との共作ですが、この曲は Bill LaBounty の持つ渋い持ち味がにじみ出る曲に仕上がっています。 彼には失礼ですが、僕が AOR 時代の彼の作品(CURB Record の3枚です)に共通して感じるのは、さえない中年男の悲哀なのですが。

 このアルバムを 5年ぶりくらいに聴いたのですが、半分くらいはホーン色の強いもので、残り半分くらいは SSW 色が残っているように勝手に記憶していました。 ところが、こうして久しぶりに聴くと、かなり印象が違っていることに気がつきます。 ピックアップした 2曲以外で、しんみりするのはラストの「Beauty」なのですが、これは Eaton も LaBounty も作曲には関わっていません。 このアルバムは、彼らのようなソングライターが 2人いたのにも関わらず、時代とのマッチングやバンドのメンバー編成などに強く支配されてしまったために、中途半端な作品になってしまったのでしょう。 必然的にバンドはこのアルバムのみで解散し、Steve Eaton は 1974 年に Capital から名盤「Hey Mr. Dreamer」を発表。 いっぽうの、Bill LaBounty は 1975 年に 21st Century から「Promised Love」を発表することとなります。
 Bill LaBounty のルーツがここにあるというのは分からなくもないのですが、「Hey Mr. Dreamer」と Fat Chance の接点は見出しづらいですね。

 

■Fat Chance / Fat Chance■

Side-1
One More Time  (LaBounty-Eaton)
We Are The People (LaBounty-Eaton- Saxton)
Funny Hats (LaBounty)
Oh Lavinia (Bennett)
That’s Not Love (LaBounty)
Hello Misery (Eaton)

Side-2
Country Morning (Eaton)
Pirate (LaBounty)
Love Sick Rag (Eaton)
Lovin’ Kid (LaBounty)
It’s A Crime (LaBounty - Borge)
Beauty (M.Deasy - K.Deasy)

Fat Chance are
Bill LaBounty : vocals , keyboards
Steve Eaton : vocals , guitar , harp
Fred Sherman : trumpet , flugel horn
Gordon Hirsch : drums
Vale Borge : vocals , bass
Phil Garonzik : woodwinds

Produced by Jay Senter

Thank you : Mike Deasy , Max Bennet , David Kemper , Larry Knechtel , Kathie Deasy , Clydie King , Gwen Johnson , Vanetta Fields , Carol Carmichael , Rita Jean Bodine , Gary Coleman , Red Rhodes , Dennis Katz , Len Chapman , John Palazzotto , Ron Watkins , Lawson Hill and Our Friends in Idaho

RCA LSP-4626