Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Bill Horwitz

2007-05-04 | SSW
■Bill Horwitz / Lies,Lies,Lies■

 ESP-DISK'Bernard Stollman が 1963 年に創設したジャズのインディーズ・レーベル。 Pharoah Sanders, Ornette Coleman, Sun Raといった前衛的なアーティストのレコードを世に送り出したことで、通のジャズファンには有名なレーベルのようです。 レーベルとしての全盛期はやはり 1960 年代だったようで、ジャズ以外のアーティストとしては、鬼才 Tom Rapp の率いた Pearls Before Swine がいたようです。 僕自身は、Tom Rapp のソロは 2 枚ほど持っているのですが、Pearls Before Swine は Reprise 時代も含めて聴いたことがありません。 かなりサイケで浮遊感のありそうな感じですね。
 さて、そんな ESP-DISK’がいつまで存続していたかは不明ですが、今日ご紹介する Bill Horwitz のアルバムは、1975 年にリリースされたものです。 おそらくは、彼の唯一の作品で、僕の持っている唯一の ESP-DISK’でもあります。

 アルバムは 1975 年にしては時代遅れの感は否めないフォーク・サウンドなのですが、随所に質の高い曲が散りばめられており、隠れた秀作と言える内容に仕上がっています。 しかし、このアルバムを語るのには、異色の 2 曲から語っておく必要があります。 それは、A 面と B 面のそれぞれ 4 曲目にあります。 まずは、A 面の「Henry K」について。 「Henry K」とは誰のことを指しているのかというと、第二次世界大戦後のアメリカを代表する政治家であり元国務長官の Henry Kissinger のことです。 わざわざ曲名の下に小さい文字で彼が 1973 年にノーベル平和賞を受賞したというコメントが書かれているので、誰でも分かるようにはなっています。 キッシンジャーはベトナム戦争の終焉に貢献したという理由でノーベル平和賞を受賞したようですが、この曲はそのことを痛烈に批判しており、歌詞では彼のことを Henry Kiss-of-Death とまで歌っているのには驚きです。 さすが、インディーズ・レーベルならではの表現といったところでしょうか。 ちなみに、サウンドだけを言うと、かなりなごめるフォーキーです。
 もう 1 曲は B 面の「Breakin’ Up Is Hard To Do」です。 この曲は年配の方なら誰でも知っている Neil Sedaka の代表曲ですが、このアルバムに突然 60’s ポップスのカバーを選曲する意図がよくわかりません。 カバー自体はオーソドックスで冒険のないアレンジになっており、他の曲との整合性も崩れてはいないものの、特に商業的なエゴが見え隠れするわけでもないので、ここはオリジナルのみで勝負しても良かったのではと思います。

 そんな対照的なテーマの 2 曲は、実はサウンド的には主役ではありません。 優れた曲だけを簡単に紹介しておきましょう。 Randy Newman や Nilson に近い作風の「New America Guilt Trip」は A 面のベストトラック。 続く、「Father (Workingman’s Daughter)」も郷愁感がにじみ出るワルツです。 同じくワルツの「Sing Me」はのどかなで鼻歌を歌いたくなるようなサビの部分になごみます。 
 B 面も質が高いです。 「If I Had A Friend Like Rosemary Woods」はアコギの弾き語りにフレンチホルンが重なってくるアルバム随一の名曲。 誰かがカバーしていても良さそうな素敵なメロディーです。 「Broken Records」は曇がちな心境を綴っているかのように響く内省的な曲。 ラストの「Sadness」は、本人のギターとボーカルのオーバーダブがしっくりはまったジェントルな曲で、ラストに相応しい内容です。

 こうしてアルバムを通して聴くと、なかなか捨てがたい魅力を持っていることを再認識しました。 どうもデフォルメされたジャケット写真があまりいい印象でないことから、ちょっと敬遠しがちだったので、評価を改めようと思います。 さきほど発見したのですが、ジャケットのイラストのヒゲの部分には、どうやら筆記体の文字が隠されていました。いくつかの名前みたいなアルファベットが読み取れるのですが、全体像はよくわかりません。 そんなことも含め、このレコードは、レーベル・年代・内容ともに妙な違和感をにじませながら、孤立しているように思えます。

 

■Bill Horwitz / Lies,Lies,Lies■

Side-1
Consumption
New America Guilt Trip
Father (Workingman’s Daughter)
Henry K
Sing Me
My Father

Side-2
If I Had A Friend Like Rosemary Woods
Tocks Island
Broken Records
Breakin’ Up Is Hard To Do
Landyman
Sadness

Songs written and arranged by Bill Horwitz
Except ‘Father’ written by Karen and Jerry Mitnick
‘Breakin’ Up Is Hard To Do’ written by Neil Sedaka and Howard Greenfield

Bill Horwitz : piano, acoustic guitar ,electric guitar
Tony Markellis : bass , fretless bass
Rick Leab : drums
Gene Hicks : violins , violas
Jerry Mitnick : back-up vocal
Eddy Martin : trumpet
Terry Negel : trombone
Bev Grant : acoustic guitars
Mario Giacalone : acoustic guitars
John Payne : flutes
Steve Hecker : two French horns

ESP-DISK’ ESP3020