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書評:小野不由美著、「十二国記」シリーズ『白銀の墟 玄の月』全4巻

2019年12月29日 | 書評ー小説:作者ア行


なんと18年ぶりの「十二国記」シリーズ書下ろし新作が出ました!
「十二国記」シリーズのエピソード0に位置付けられている『魔性の子』に始まる十二国のうちの1国「戴」の物語がようやくここに完結します。
このシリーズを知らない、またはよく思い出せないという方のためにまずは「十二国記」の世界観をご紹介します。

(十二国記地図、ウイキペディアより借用)

十二国記の舞台は上の地図のように12国から成る異界です。「蝕」という激しい嵐のような現象によってこちら側の世界である「蓬莱」(日本)または「昆明」(中国)とつながっています。
この異界では子供は各里で管理されている里木になり、育ったところで夫婦がその実をもぎます。そうした「実」は蝕によって蓬莱に流されてしまうことがあり、その場合、人間の女性の体内に胎児として宿ることになります。それを「胎果」と呼びます。
十二国にはそれぞれ王と麒麟がいます。麒麟は天の声を聴くことのできる慈悲深い神獣で、その天の声に従って王を選びます。人が「王」になると、神籍に入り、天に背いて失道しない限り不老不死になります。役人や軍人は役職付きであれば仙籍に入り、やはり不老です。
「王が失道すると麒麟は病む」という一蓮托生の関係が王と麒麟の間にはあるとされていますが、その関係は単純ではないので、詳しくは各エピソードを読んでください。
十二国の右上に位置する戴の麒麟は戴麒と呼ばれます。彼は胎果です。麒麟は通常金髪ですが、彼は珍しい黒麒です。
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エピソード0の『魔性の子』は戴麒が王を選んでしばらく後に事情があって再び蓬莱に流されてしまい、記憶をなくして周りで起こる不思議な現象を理解できないまま人に疎まれながら成長し、異界からの迎えが来るまでのエピソードです。

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風の海迷宮の岸』では、蓬莱に流された戴麒が10年の歳月を経て故郷の蓬山へ戻されたものの、右も左も分からないまま戴王選定のための昇山が始まり、王を選ぶ際の決め手となる「王気」とは何か、麒麟の役割とは何かなど幼い戴麒の苦悩が描かれます。
華胥の幽夢』は才国の物語ですが、中に『冬栄』という短編が収録されており、戴麒を異界に戻すために助力した漣の麒麟(漣麟)に戴麒がお礼を言いに行くという平和なエピソードです。

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黄昏の岸暁の天』では、驍宗が玉座に就いて半年後、戴国は疾風の勢いで再興に向かいますが、反乱鎮圧に赴いた王は戻らず、届いた凶報に衝撃を受けた泰麒も忽然と姿を消します。王と麒麟を失い、荒廃へと向かう国を案じる女将軍・李斎は命を賭して慶国を訪れ、援助を求めます。戴国を救いたい―景王陽子の願いに諸国の麒麟たちが集って戴麒の捜索に協力することになります。『魔性の子』のエピソードの十二国側の動きを描いたストーリーです。

景王陽子と諸国の麒麟たちの尽力のおかげで行方不明になって6年後ようやく故郷に帰還し、記憶も取り戻し、体調も回復した戴麒は慶国に留まることを拒み、国のために李斎と共に戴へ戻るところでストーリーが終了してファンをやきもきさせること十数年。ようやく日の目を見た『白銀の墟 玄の月』。

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『白銀の墟 玄の月』は戴麒と李斎が戴に帰国したところから始まります。しかし最初から彼らにスポットを当てず、見も知らない母子と彼女らに付き添い、「どこかまで送る」という謎の男・項梁の道行きの描写からスタートします。
この3人連れが途中で戴麒と李斎に出くわし、項梁が李斎同様王師の軍人で、驍宗のために働けるようになるまで身を潜めて雌伏の時を過ごしていたことが分かります。項梁はそれまで一緒にいた母子を信頼のできる里に預けて李斎に合流し、驍宗探索の旅に出ます。王が行方不明になって6年以上経っているものの、王が死ねば落ちる鳥・白雉が落ちていないので、「どこかで生きている」という一縷の望みを抱いてー。
少しずつ散逸した仲間や偽王・阿選を不満を持つ宗教団体などの協力で仲間や協力者を増やしていきますが、戴麒は捜索よりも民の救済を優先し、敵陣である王宮・白圭宮に護衛として項梁だけ連れて乗り込みます。「天命が変わり、新王に阿選が選ばれた」と主張したので、欺瞞ではないかと疑われつつも一応王宮に受け入れられますが、長いことていのいい軟禁状態が続き、無為の日々を過ごすことになります。

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2巻では戴麒の視点を中心として白圭宮の様子が子細に描写されます。玉座を奪ったものの、引きこもってどんな報告も「聞いた」とした返答しない阿選、それをいいことに朝廷の実権を握り好き放題にしている冢宰・張運、そして魂を抜かれたように傀儡のようにしか動かない「病んだ」者たち。反民を容赦せずに村ごと町ごと誅伐する以外は何もせず「棄民」が続く中、戴麒は民を救うために台輔・瑞州候としての権限を取り戻そうともがきます。
一方、李斎は驍宗が襲撃されたはずの山を目指し、証言を集めていきます。
誅伐の傷跡も生々しい荒廃した街、民の困窮、里の閉鎖性などが詳述されますが事態に進展はありません。

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第3巻では、戴麒が阿選が対峙し、張運との対立を深めつつも瑞州候としての権限を徐々に取り戻し、瑞州の政治を立て直し始めます。
この巻では簒奪者阿選の驍宗に対する心情・確執も語られます。

李斎の方の驍宗探索は進展なしですが、3巻の終わりの方で驍宗自身が登場し、彼視点のこれまでの経緯が語られます。

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驍宗は閉じ込められた函養山中の縦穴の中で見つけた騎獣・騶虞(すうぐ)を捉えてついに脱出成功。
阿選は戴麒の「阿選が新王になるには驍宗の禅譲が必要」という言を受け、ついに驍宗を「掘り起こす」ために王師を派遣しますが、函養山は土匪の占領下にあったため、両者は真っ向から対立することになります。李斎たちはこの土匪たちに驍宗探索のために便宜を図ってもらった恩義があるために、正体が敵側に露見してしまう危険を冒して助けに行きます。この戦闘のさなか、王師の一部隊が襲っている村に驍宗が乱入し、敵将が逃げてしまって助けた子供を抱えているところに李斎たちの仲間が到着したので、驍宗は無言で彼らの虜囚になり、本陣に戻ったところで李斎たちと再会し、「王の帰還」が知れ渡ることになります。とりあえず驍宗を国外に逃亡させ、阿選討伐の準備が整ったら呼び戻す算段でしたが、阿選側の行動が素早く、驍宗は奪われてしまいます。絶望的な状況の中、果たして驍宗を救い出すことができるのか、クライマックスは絶望が濃厚でそれがどう希望に転換するのか想像だにできないところがぞくぞくします。

非常にきめ細やかな描写を含む長編なので、途中の2・3巻は事態があまり動かず、少々じれったくも感じますが、長いこと待ちわびたファンが納得する説得力のある完結編だと思います。

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