徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

レビュー:ヤマザキマリ著、『テルマエ・ロマエ』全6巻(エンターブレイン)

2019年12月04日 | マンガレビュー

『テルマエ・ロマエ』は義妹が日本から予告もなく送ってきてくれたマンガですが、独特のおかしみがあり、ずいぶんと笑わせてもらいました。
ローマ帝国はハドリアヌス皇帝の治世下の紀元後128年、浴場技師として働くルシウス・モデストゥスは浴場設計のアイデアに悩みながら風呂に入っているうちに排水口と思しき穴から激しき吸い込まれ、ようやく出たところは現代日本の銭湯だったーという具合に風呂または池などの水を介して日本のどこか(「平たい顔族」の国)の風呂にワープして、そこからアイデアを持ち帰ってそれをできる限り再現することを繰り返すうちに皇帝自身のお抱えとなってどんどん奇抜な浴場施設を開発していきます。
このローマと日本の入浴文化をつなげる発想も面白いですが、まじめ一徹で始終しかめっ面で眉間にしわを寄せているルシウスが日本の入浴文化の些細なことを真剣に調べ、驚き、「なぜ下等に見える平たい顔族がローマの文明にはないものをこうもやすやすと発明・使用しているのか」と悔しがる様の滑稽さが魅力的です。
私が特に気に入っているエピソードは、ローマで成金趣味の派手な風呂を作るように依頼されてうんざりしているルシウスが、日本にワープしてそこで「ローマ風の浴場」をクライアントに依頼されてまじめに調べていたのに、実際にはローマ風とはかけ離れた成金趣味のものがクライアントの希望でうんざりしていた日本の建築家と共感しながら芸術的完成度の高い浴場を作り上げるという3巻に収録されているものと、6巻に収録されているルシウスが日本で惚れてしまったラテン語を話す女性の祖父が古代ローマにワープして、マッサージ師の能力を発揮してとりあえず金を手に入れ、しまいにはハドリアヌス皇帝の寿命を2か月ばかり延ばすような施術をして褒美をもらって帰るエピソードです。このおじいちゃんの動じないところがすばらしいと思いました。マッサージの需要はローマの浴場でもあるわけで、そこにひょっこり出てしまったおじいちゃんが言葉は通じなくとも体を見れば状態が分かるので効果のあるマッサージを施し、彼の前に行列ができてしまい「しかたねえな」と治療し、終わってから「なんだかわからねえが、銭は手に入った」と今度は外に出て服屋で服を買い、飯屋で飯を食って、他の労働者と美味しい食べ物を通して通じ合うシーンとか、異世界での淡々としたおじいちゃんの反応が魅力的ですね。そして、ハドリアヌス帝のもとに連れていかれて、じじい同士眼力だけで語り合っているところがすごいですね。😅 
このマンガのすごいところは、これだけ登場人物がしかめ面のおっさん・爺さんで占められてシリアス風なのに、ところどころ吹き出してしまうようなユーモアが盛り込まれているところです。

最終巻の終わりに続編の新連載がスタートするようなことが告知されていたのですが、単行本化はされていないようですね。残念です。

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レビュー:こやまゆかり著、『バラ色の聖戦 The Future is in our Hands!』全20巻

2019年12月04日 | マンガレビュー

義妹からお勧めだからと全巻セットを送ってもらい、さっそく一気読みしたばかりでなく、二度読みしてしまうほど面白いマンガでした。30歳の専業主婦が読モをやったのを機にモデルを目指して戦う物語。
主人公の年齢が30歳で二人の子持ちであるということを除けば、平凡(以下)からスタートした主人公がなにかの分野で才能を発揮し、意地悪な敵や世間の冷たい風を受けて紆余曲折しながらも心強い味方もいて、結局大成するという割とよくあるストーリーパターンかと思います。すぐに思い浮かべられるものだけでも、美内すずえの『ガラスの仮面』(演劇)、一条ゆかりの『プライド』(歌)、山岸涼子の『舞姫テレプシコーラ』(バレエ)、中村佳樹の『スキップ・ビート』(演劇)などがあります。
しかし、この作品は主人公・真琴が既婚者(のちに離婚しますが)の専業主婦であることから、少女漫画では重点を置かれない「大人の女性の自由と生きがい」がコアテーマとなっており、理解のない夫、子育て、働く母親としての葛藤がきめ細かく盛り込まれているのが特徴的です。その意味でまさに「大人の女性に贈るマンガ」と言えますね。
しかし、こういうマンガに登場するライバルその他の人を陥れようとするエネルギーやその手段ってえげつないですよね。まあ、こういう毒があるからこそ主人公の強さやしなやかさが際立つのですけど、やっぱりすごいなーと感心せずにはおれません。どうしてそういうことにエネルギーが使えるのかなあとか、常にいらいらとしてて疲れるのに、ご苦労様みたいな。
この作品の悪役メインキャスト紗良はまさにイライラの塊ですが、そのイライラの原因は子供を自分の見栄の道具としてしか見ない母親から認められたいという渇望と認められない不安と絶望にあって、強烈ですがなかなか悲しいキャラでもあります。
紗良は分かりやすい悪役キャラですが、人としての底知れない怖さを感じたのは真琴の元夫・敦司の再婚相手・陽子ですね。絵に描いたような夫を立てる家庭的な専業主婦で敦司の理想の相手として登場しますが、敦司が脳出血で倒れ、後遺症で元の仕事に戻れなくて今後を真剣に悩んでいるときに見せた「収入を確保するのはあくまでも夫の役割で自分はそのためのサポート」という割り切りが逆に怖いような気がしました。妙に納得した面もありますが。夫の横暴をにっこり笑って許していたのはこのためだったのか!と。😅 
なんというか真琴のモデルの世界も異世界ですが、ママ友・主婦友の世界も私には無縁の者なので、いろいろと興味深くて勉強になりました。

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