また昨日の続きです。
「だって、あんたの彼氏、今や女優でもモデルでも、選り取り見取りなんでしょ? だったら乗り換えるじゃない?」
麻衣子は耳を疑い、憤慨した。この無礼な言い草は何なのか。(中略)
「先生、じゃあ、わたしはどうすればいいですか?」麻衣子が聞いた。
「先生? わたしのこと? やだあ。名前でいいよ。わたし鏡子。鏡の子ね。呼び捨てでいいよ。(中略)」
「じゃあ、鏡子。どうしたらいいか教えて」(中略)
「麻衣子が望むことは彼との結婚?」
「そうだけど……」(中略)
「正直に言いなよ。どうなって欲しい?」と鏡子
「そうねえ……、勇樹の成績が少し落ちてくれるといいかな。(中略)」
「わかった。じゃあ祈ってみようか」
「祈る? ここ、占いじゃないの?」
「どっちもやってるの。いいじゃない、細かいことは」
鏡子が棚から水晶玉を持ってきて、テーブルに置いた。
「さあ、右手をかざして」
鏡子が指示し、麻衣子は従った。同じように反対側からも鏡子が手をかざす。すると水晶玉の中に、虹色のうねりが見えた。現実感が薄れていく。まるで夢の中にいるかのようだ。
「はい、これで終わり」
五分ほど手をかざして、儀式のようなものは終わった。(中略)
「あのう、料金は」(中略)
「あ、そうね、料金か。いくらならいい?」(中略)
「さあ、占いって十分千円くらいだと思うけど」
「じゃあ、あんた三十分いたから三千円。それでいい?」
「うん、いい」
麻衣子がバッグから財布を取り出すと、鏡子が「いいや。千円で。初回サービス」と言った。(中略)
翌週から勇樹が大スランプに陥った。ヒットが出ないのである。(中略)
最初は、少しくらい打てない方が悪い虫がつかなくていいと余裕で眺めていたが、あまりに続くので麻衣子は怖くなった。(中略)
半信半疑の思いでいるところへ、勇樹から会いたいというメールが入った。勇樹はわたしを必要としている━━。(中略)
「気にすることないよ。今に調子を取り戻すから」
麻衣子が慰めても、「仕事の話をするんじぇねえ」と、苛立った様子でセックスに没頭するばかりである。(中略)
勇樹の打率はその後も下がり続け、影響は守備にも及んだ。一度サヨナラ・エラーというものをやらかし、ファンから総スカンを食った。(中略)
さて、どうしたものか━━。しょうがないので、麻衣子は再び原宿の占い師を訪ねることにした。(中略)
電話番号を知らないのでアポなしで訪問すると、鏡子は麻衣子の来訪を待ち構えていたかのように、「おー、来た、来た」と可笑しそうに出迎えた。
「慌ててんでしょう。あんたの彼氏がスランプに陥ったものだから」(中略)
「そうよ。ねえ、もしかしてこの前の祈祷のせい?」(中略)
「そうそう。予想以上に呪いが効いちゃったね。麻衣子の怨念が強いせいだよ」
「呪い? あんた呪術師なの?」(中略)「ああ、言い間違い。祈祷と占いね」と訂正した。
「でも麻衣子の望み通りになったわけだからいいじゃん。(中略)」
「そうだけど、このまま落ちて行ったら、勇樹は球団を解雇されるわけだし、そうなったら、せっかくプロ野球選手の彼女の座を射止めたわたしはどうなるのよ」
「どうなるって、麻衣子はどうするの?」
「そんなの、別れるに決まってるでしょう。(中略)」
「はは。麻衣子は正直だね。好きよ」(中略)」
「とにかく、今は彼の復調を祈る。それであとはうまくやって」
「でもさあ、スランプ中はずっとわたしを求めてたんだし、それって愛されてるってことにならない?」
「ならない」(中略)」
「どうしてよ」(中略)」
「じゃあ聞くけど、愛されてるって実感あった?」(中略)
「とにかく、これで様子を見なよ。彼氏が復調したとき、あんたにどんな態度を取るか。それで彼氏の本心がわかると思う」
「そうだね……」(中略)
スランプのまま勇樹はオールスターゲームに出場した。(中略)すると━━。
勇樹の打棒は爆発した。なんと一線級のピッチャーたちを相手に、三打席連続でホームランを打ったのである。(中略)
テレビの前で麻衣子はもらい泣きしてしまった。(中略)
はやる気持ちで祝福のメールを打ったが、返信はなかった。その夜、勇樹はテレビ各局のスポーツ・ニュース番組を梯子し、インタビューに答えていた。たくさんメールが来ただろうし、チェックする時間がないのも理解できた。(中略)
勇樹からメールの返信があったのは翌日になってからだった。それも《ゆうべは飲み過ぎた。二日酔》というおざなりなものだった。(中略)
オールスターで大活躍した勇樹は、後半戦もその勢いのまま打ちまくった。(中略)
活躍するにつれて会う回数は減った。(中略)それもセックスだけである。(中略)
(また明日へ続きます……)
「だって、あんたの彼氏、今や女優でもモデルでも、選り取り見取りなんでしょ? だったら乗り換えるじゃない?」
麻衣子は耳を疑い、憤慨した。この無礼な言い草は何なのか。(中略)
「先生、じゃあ、わたしはどうすればいいですか?」麻衣子が聞いた。
「先生? わたしのこと? やだあ。名前でいいよ。わたし鏡子。鏡の子ね。呼び捨てでいいよ。(中略)」
「じゃあ、鏡子。どうしたらいいか教えて」(中略)
「麻衣子が望むことは彼との結婚?」
「そうだけど……」(中略)
「正直に言いなよ。どうなって欲しい?」と鏡子
「そうねえ……、勇樹の成績が少し落ちてくれるといいかな。(中略)」
「わかった。じゃあ祈ってみようか」
「祈る? ここ、占いじゃないの?」
「どっちもやってるの。いいじゃない、細かいことは」
鏡子が棚から水晶玉を持ってきて、テーブルに置いた。
「さあ、右手をかざして」
鏡子が指示し、麻衣子は従った。同じように反対側からも鏡子が手をかざす。すると水晶玉の中に、虹色のうねりが見えた。現実感が薄れていく。まるで夢の中にいるかのようだ。
「はい、これで終わり」
五分ほど手をかざして、儀式のようなものは終わった。(中略)
「あのう、料金は」(中略)
「あ、そうね、料金か。いくらならいい?」(中略)
「さあ、占いって十分千円くらいだと思うけど」
「じゃあ、あんた三十分いたから三千円。それでいい?」
「うん、いい」
麻衣子がバッグから財布を取り出すと、鏡子が「いいや。千円で。初回サービス」と言った。(中略)
翌週から勇樹が大スランプに陥った。ヒットが出ないのである。(中略)
最初は、少しくらい打てない方が悪い虫がつかなくていいと余裕で眺めていたが、あまりに続くので麻衣子は怖くなった。(中略)
半信半疑の思いでいるところへ、勇樹から会いたいというメールが入った。勇樹はわたしを必要としている━━。(中略)
「気にすることないよ。今に調子を取り戻すから」
麻衣子が慰めても、「仕事の話をするんじぇねえ」と、苛立った様子でセックスに没頭するばかりである。(中略)
勇樹の打率はその後も下がり続け、影響は守備にも及んだ。一度サヨナラ・エラーというものをやらかし、ファンから総スカンを食った。(中略)
さて、どうしたものか━━。しょうがないので、麻衣子は再び原宿の占い師を訪ねることにした。(中略)
電話番号を知らないのでアポなしで訪問すると、鏡子は麻衣子の来訪を待ち構えていたかのように、「おー、来た、来た」と可笑しそうに出迎えた。
「慌ててんでしょう。あんたの彼氏がスランプに陥ったものだから」(中略)
「そうよ。ねえ、もしかしてこの前の祈祷のせい?」(中略)
「そうそう。予想以上に呪いが効いちゃったね。麻衣子の怨念が強いせいだよ」
「呪い? あんた呪術師なの?」(中略)「ああ、言い間違い。祈祷と占いね」と訂正した。
「でも麻衣子の望み通りになったわけだからいいじゃん。(中略)」
「そうだけど、このまま落ちて行ったら、勇樹は球団を解雇されるわけだし、そうなったら、せっかくプロ野球選手の彼女の座を射止めたわたしはどうなるのよ」
「どうなるって、麻衣子はどうするの?」
「そんなの、別れるに決まってるでしょう。(中略)」
「はは。麻衣子は正直だね。好きよ」(中略)」
「とにかく、今は彼の復調を祈る。それであとはうまくやって」
「でもさあ、スランプ中はずっとわたしを求めてたんだし、それって愛されてるってことにならない?」
「ならない」(中略)」
「どうしてよ」(中略)」
「じゃあ聞くけど、愛されてるって実感あった?」(中略)
「とにかく、これで様子を見なよ。彼氏が復調したとき、あんたにどんな態度を取るか。それで彼氏の本心がわかると思う」
「そうだね……」(中略)
スランプのまま勇樹はオールスターゲームに出場した。(中略)すると━━。
勇樹の打棒は爆発した。なんと一線級のピッチャーたちを相手に、三打席連続でホームランを打ったのである。(中略)
テレビの前で麻衣子はもらい泣きしてしまった。(中略)
はやる気持ちで祝福のメールを打ったが、返信はなかった。その夜、勇樹はテレビ各局のスポーツ・ニュース番組を梯子し、インタビューに答えていた。たくさんメールが来ただろうし、チェックする時間がないのも理解できた。(中略)
勇樹からメールの返信があったのは翌日になってからだった。それも《ゆうべは飲み過ぎた。二日酔》というおざなりなものだった。(中略)
オールスターで大活躍した勇樹は、後半戦もその勢いのまま打ちまくった。(中略)
活躍するにつれて会う回数は減った。(中略)それもセックスだけである。(中略)
(また明日へ続きます……)