また昨日の続きです。
「原人イシの物語」(『週刊少年サンデー』1975年10月20日)。
イシは、作中でも 紹介されているように、1911年にカリフォルニア州で発見され、カリフォルニア大学の人類学者アルフレッド・クローバーとトーマス・ウォータマンらによって研究されました。「イシ」は「インディアン」のヤヒ族の言葉で「人」を意味し、彼のほんとうの名前はわかりません。現代社会から隔絶して原始的な生活を送っていたヤヒ族の最後の生き残りであるイシの半生は、のちにアルフレッド・クローバーの妻シオドーラ・クローバーが、夫の死後に彼の残した記録をもとに『イシ━北米最後の野生インディアン』と少年少女向けに『イシ━二つの世界に生きたインディアンの物語』として本にまとめられました。この本は二冊とも翻訳されて岩波書店から刊行されています。
イシの物語は、アメリカ大陸に上陸してきた白人たちによる先住民虐殺の悲惨な歴史と共に、現代文明から隔絶し自然と共生しながら生きてきた男の半生から、現代人が失ってしまった強靭な身体能力と鋭い感覚や豊かな感性に気付かされます。
この本に収められたマンガとエッセイのそれぞれは、宇宙的な視点から地球と人間のいとなみを俯瞰(ふかん)し、自然環境と命の大切さを様々に物語化し文章化した、地球と環境を考えるきっかけとなる作品ばかりです。ここには手塚治虫の地球哲学がしっかりと埋めこまれているといえるでしょう。これらのマンガとエッセイを素材にして、多様な視点からの切り口で、エコロジーについて考えていただけたらと思います。
次に、手塚さんのエッセイから、いくつかの文章を抜粋させていただこうと思います。
・林の向こうに真っ赤に大きく揺らめきながら沈んでいく夕日や、風のざわめき、青い空に高く流れる白い雲━━そんな自然にふれたとき、たとえ幼くても、ぼくはいつもやさしい気持ちになっている自分を感じていました。大人になったいまだって、それは同じ。きっとみんなそうだろうと思います。
・連載している『ルードウィヒ・B』では、幼い日のベートーヴェンが、いつか耳の聴こえなくなることを予感し、世の中の自然と生き物の音や鳴き声のすばらしさを記憶にとどめようとするシーンを描きました。その時、彼は、ほとんど“神”を感じるほどの感動を、体中を耳にして受けとめているのです。
・四十六億年というとてつもないはるかな時間が、ぼくらの地球の年齢です。しかし、地球上に最初の人類が誕生してからは三百万年しかまだ経っていない。
つまり、人間なんて、地球の歴史上では新参者(しんざんもの)もいいところということです。それがどういうわけか、いまやわが物顔で、“万物(ばんぶつ)の霊長(れいちょう)”と自賛(じさん)しつつ、欲望のおもむくままに自然を破壊し、動物たちを殺戮(さつりく)しつづけています。
・これからの人類にとって、ほんとうに大切なもの、必要なものは何なのか、じっくり考えてみなければならないギリギリの地点に来てしまっています。
・恐竜は一億数千万年もこの地球上で繁栄した王者だったにもかかわらず、なぜか六千五百年前に絶滅してしまった。
人類など地球上に現れてから、まだ三百万年でしかないのに、はやくも人類自身ばかりか、地球上の全生命体滅亡か存続かの鍵(かぎ)を握ってる。
・幼いころから生命の大切さ、生物をいたわる心を持つための教育が徹底すれば、子どもをめぐる現在のような悲惨な事態は解消していくだろうと信じます。
今、ここから始めればいいのです。ただ、繰り返しますが、そのためには“豊かな自然”が残されていなければならない。
自然というものは人の心を癒(い)やす不思議な力を宿していて、自然こそ、子どもにとっては最高の教師だとぼくは思います。
・ところで、西洋(せいよう)や中国、インドの都市は必ず城壁があって、中の都市空間と周辺の空間とはまったく異質のものだという観念、これは日本にはないと思います。
中国にも自然は残っています。けれども、その残り方が荒々しい。放っとけ、といったような感じで。だから、中国もこのままどんどん、開発、経済の高度成長を進めていけば、自然は滅びてしまいそうです。
上海(しゃんはい)周辺、蘇州(そしゅう)などもどんどん木が伐り倒されていますが、問題にはなっていないようです。
・ところで、日本人は匂いに敏感で鼻がよくきくのだそうです。日本人の自然環境に対する情感、感触には、匂いがかなり含まれているのではないでしょうか。
花々はもちろんのこと、ぼくなどは蝶の匂いというのが、ものすごく好きなのです。かいだこと、ありますか。何と表現したらいいのでしょうか、なんともいえない生き物のいい匂いなのです。
1日で読んでしまえるほど、面白くて示唆に富んだ本でした!!
→サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
→FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135)
「原人イシの物語」(『週刊少年サンデー』1975年10月20日)。
イシは、作中でも 紹介されているように、1911年にカリフォルニア州で発見され、カリフォルニア大学の人類学者アルフレッド・クローバーとトーマス・ウォータマンらによって研究されました。「イシ」は「インディアン」のヤヒ族の言葉で「人」を意味し、彼のほんとうの名前はわかりません。現代社会から隔絶して原始的な生活を送っていたヤヒ族の最後の生き残りであるイシの半生は、のちにアルフレッド・クローバーの妻シオドーラ・クローバーが、夫の死後に彼の残した記録をもとに『イシ━北米最後の野生インディアン』と少年少女向けに『イシ━二つの世界に生きたインディアンの物語』として本にまとめられました。この本は二冊とも翻訳されて岩波書店から刊行されています。
イシの物語は、アメリカ大陸に上陸してきた白人たちによる先住民虐殺の悲惨な歴史と共に、現代文明から隔絶し自然と共生しながら生きてきた男の半生から、現代人が失ってしまった強靭な身体能力と鋭い感覚や豊かな感性に気付かされます。
この本に収められたマンガとエッセイのそれぞれは、宇宙的な視点から地球と人間のいとなみを俯瞰(ふかん)し、自然環境と命の大切さを様々に物語化し文章化した、地球と環境を考えるきっかけとなる作品ばかりです。ここには手塚治虫の地球哲学がしっかりと埋めこまれているといえるでしょう。これらのマンガとエッセイを素材にして、多様な視点からの切り口で、エコロジーについて考えていただけたらと思います。
次に、手塚さんのエッセイから、いくつかの文章を抜粋させていただこうと思います。
・林の向こうに真っ赤に大きく揺らめきながら沈んでいく夕日や、風のざわめき、青い空に高く流れる白い雲━━そんな自然にふれたとき、たとえ幼くても、ぼくはいつもやさしい気持ちになっている自分を感じていました。大人になったいまだって、それは同じ。きっとみんなそうだろうと思います。
・連載している『ルードウィヒ・B』では、幼い日のベートーヴェンが、いつか耳の聴こえなくなることを予感し、世の中の自然と生き物の音や鳴き声のすばらしさを記憶にとどめようとするシーンを描きました。その時、彼は、ほとんど“神”を感じるほどの感動を、体中を耳にして受けとめているのです。
・四十六億年というとてつもないはるかな時間が、ぼくらの地球の年齢です。しかし、地球上に最初の人類が誕生してからは三百万年しかまだ経っていない。
つまり、人間なんて、地球の歴史上では新参者(しんざんもの)もいいところということです。それがどういうわけか、いまやわが物顔で、“万物(ばんぶつ)の霊長(れいちょう)”と自賛(じさん)しつつ、欲望のおもむくままに自然を破壊し、動物たちを殺戮(さつりく)しつづけています。
・これからの人類にとって、ほんとうに大切なもの、必要なものは何なのか、じっくり考えてみなければならないギリギリの地点に来てしまっています。
・恐竜は一億数千万年もこの地球上で繁栄した王者だったにもかかわらず、なぜか六千五百年前に絶滅してしまった。
人類など地球上に現れてから、まだ三百万年でしかないのに、はやくも人類自身ばかりか、地球上の全生命体滅亡か存続かの鍵(かぎ)を握ってる。
・幼いころから生命の大切さ、生物をいたわる心を持つための教育が徹底すれば、子どもをめぐる現在のような悲惨な事態は解消していくだろうと信じます。
今、ここから始めればいいのです。ただ、繰り返しますが、そのためには“豊かな自然”が残されていなければならない。
自然というものは人の心を癒(い)やす不思議な力を宿していて、自然こそ、子どもにとっては最高の教師だとぼくは思います。
・ところで、西洋(せいよう)や中国、インドの都市は必ず城壁があって、中の都市空間と周辺の空間とはまったく異質のものだという観念、これは日本にはないと思います。
中国にも自然は残っています。けれども、その残り方が荒々しい。放っとけ、といったような感じで。だから、中国もこのままどんどん、開発、経済の高度成長を進めていけば、自然は滅びてしまいそうです。
上海(しゃんはい)周辺、蘇州(そしゅう)などもどんどん木が伐り倒されていますが、問題にはなっていないようです。
・ところで、日本人は匂いに敏感で鼻がよくきくのだそうです。日本人の自然環境に対する情感、感触には、匂いがかなり含まれているのではないでしょうか。
花々はもちろんのこと、ぼくなどは蝶の匂いというのが、ものすごく好きなのです。かいだこと、ありますか。何と表現したらいいのでしょうか、なんともいえない生き物のいい匂いなのです。
1日で読んでしまえるほど、面白くて示唆に富んだ本でした!!
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