うたことば歳時記

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中秋の名月と仲秋の名月

2017-07-11 14:34:21 | その他
 旧暦8月15日の月は、古来「ちゅうしゅうの名月」と称して、賞翫されてきました。「ちゅうしゅう」という言葉には、「中秋」と「仲秋」の表記がありますが、意味は微妙に異なります。中秋は秋の真中という意味で、月切りの季節区分では、旧暦1~3月が春、4~6月が夏、7~9月が秋、10~12月が冬ですから、中秋は秋3カ月の真中である8月15日を意味しています。(立春・立夏・立秋・立冬を基準として季節を分けるやり方は「節切り」と言います)。それに対してそれぞれ3カ月の季節を3等分し、初めの三分の一を「孟」、次の三分の一を「仲」、最後の三分の一を「季」と名付けることがあります。

 少々脱線しますが、孟・仲・季の季節はそれぞれ1カ月の幅がありますから、時候の挨拶には便利な言葉ですね。堅苦しくて苦手にする人もいることでしょうが、旧暦1月ならば、「孟春の候」、2月ならば「仲春の候」、3月ならば「季春の候」と書けばいいのですから、便利な言葉です。

 話をもとに戻しましょう。ですから秋3カ月の内、7月を孟秋、8月を仲秋、9月を季秋と呼ぶわけです。「孟」は人名では「はじめ」と読み、「季」は「すえ」と読むことがありますね。楠木正成の末弟に「正季」(まさすえ)という武将がいて、湊川の戦いで自刃したことはよく知られています。中国語で「季妹」と言えば、末の妹のことです。そういうわけで仲秋は8月全体のことですから、仲秋の名月は8月中の名月、つまり8月の満月という意味になり、仲秋の名月は必ず満月なのです。
 それなら中秋の名月はどうなるのでしょうか。結論から言えば、満月とは限りません。天文学的には、月の地球周回軌道は楕円であり、地球との距離は変化します。地球に近い時は月は速く動き、遠い時は遅く動きます。そのため旧暦15日が必ず満月とは限らないのです。満月は年によって旧暦の14日から17日の範囲で一定していません。実際には月齢で16日くらいのことがかなりあるのです。8月17日が満月になる年の中秋の月、つまり8月15日の月は、よくよく見れば満月ではないことがわかります。
 ただし歴史的には「中秋の名月」という表記が圧倒的に多く、民間では「十五夜」という言い方が定着していますから、「中秋の名月」の方が正しいと思われるのも一理あります。ですから十五夜という言葉にこだわるならば中秋の名月、満月にこだわるならば仲秋の名月と言えば間違いはないわけです。

 ネットには「中秋の名月」が正しく、「仲秋の名月」は誤りであるかのように説明されることが多いのですが、「仲秋の名月」が誤りというわけではありません。間違いと書いている人は、仲秋と中秋の意味を正しく理解していないのでしょう。