シンポジウム開催の主旨
知と文明のフォーラム代表 北沢方邦
ガンなどの文明病の根源である残留農薬や食品添加物汚染問題、バイオエタノール生産にともなう食料価格の世界市場での高騰、地球温暖化がもたらす食料危機、とりわけ食料自給率が低く、遠距離の輸入食料輸送に依存するわが国の食料安全保障体制の脆弱性など、食をめぐる問題が年々深刻化しています。
また食の問題は健康問題に直結し、医療費の増大は個人だけではなく、国や世界の保健医療体制とその財政基盤をもゆるがしています。予防医学が声高に叫ばれていますが、いまや病気とはなにか、健康とはなにかが根本的に問われる時代であるといえます。
なぜなら近代の文明や思想は、人間の「身体性」を置き去りにし、知識と観念のみで合理性や利便を追求してきたからです。病院や医薬品へ一方的に依存するのみで、みずからの身体の自己管理さえできない「先進諸国」のひとびとは、この点で、薬草の利用法や応急手当などに熟知した、誤って未開とよばれるひとびとの生活知に劣っているといわなくてはなりません。むしろわが国は、かつて東洋医学の先進国であったにもかかわらず、その遺産を長い間忘却してしまったのです。
地球温暖化に代表され、人類の存続にかかわる環境危機も、人間の内なる自然である身体性をないがしろにし、したがって大自然そのものをもたんなる資源とみなしてきた近代文明が、必然的にもたらしたものといえます。いまやわれわれの思考体系を変え、身体性を文明の新しい出発点に据えないかぎり、これらの危機の解決への出口は見えません。
そのうえ経済グローバリズムの崩壊によって、世界的な経済危機のさなかにある現在、ポスト・グローバリズムの世界の構想にとっても、「食」の問題はひとつのキーワードとなります。なぜなら、自然エネルギーの開発と結びつく有機農法などによる農林漁業の「変革」は、村落コミュニティの再建とともに、新技術や新雇用を創出し、文明全体を変えるエコ・ソリューションのひとつの基盤となりうるからです。