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大学(01、東大教授の定年延長)

2008年08月04日 | タ行
 東京大学の教授の定年は(2000年)現在60歳だそうです。それを2001年から3年ごとに1歳ずつ段階的に延長して2013年に定年を65歳にするそうです。この提案がかなり大きな反響を呼びましたが、一応決まったようです。ここでこの論争を聞いた私の考えをまとめておきたいと思います。

 東大総長の提案理由は「教員の国籍、性別、年齢による分布の多様化を図り、欧米の大学のように60歳を超える人材を活用する」ということだそうです。

 それに対する反対意見は、この提案理由は欺瞞で、本当の理由は、年金支給年齢が引き上げられているのに東大教員の他大学への再就職が難しくなっていることだ、と主張しています。そして、反対者たちは、定年を延長すると「若手の登用が遅れて研究活力が低下する」という弊害を指摘しています。

 私もこの東大教授OBを中心とする反対者たちの推測と反対意見は正しいと思います。しかし、私はこの反対意見を読んでいて、その反対者たちの特に東大教授OBの人たちが、現在私立大学教授の肩書を持っていることに注目せざるをえませんでした。

 もし年金支給年齢が引き上げられて、しかも他大学、即ち私立大学への再就職が難しくなってきているとするならば、東大を60歳で定年退職した人はその後どうしたらよいのでしょうか。もしここに不安があるとするならば、これまでに首尾よく私立大学に再就職した人に、定年延長に反対する資格があるのでしょうか。

 又、定年を延長すると「若手の登用が遅れて研究活力が低下する」とするならば、東大を定年退職した人が私立大学に再就職することは、私立大学における若手の登用を妨げ、私立大学における研究活力を低下させるのではないのでしょうか。それとも、東大の研究活力の低下は困るけれど、私立大学の研究活力は低下してもいいと言うのでしょうか。

 とこう考えてくると、根本的な問題は60歳を超えた大学教授のあり方であることが見えてきます。そして、今回も全然議論されなかったのがこの根本問題なのです。大学教授たちの問題考察能力はこの程度だということなのでしょう。

 60歳を超えた人が教授をしていることが「若手の登用を遅らせ研究活力を低下させる」というのはその通りでしょう。これを認めるとするならば、大学教授は原則としてみな60歳定年にせよ、ということになると思います。そして、私はこの考えに賛成です。では、その人たちは定年後、どうするべきなのでしょうか。

 まず、60歳定年にしたら当人は本当に困るでしょうか。65歳からは年金がもらえます。額としてもかなりのものがもらえるはずです。従って、年金支給年齢以前だけが問題です。この間はどうしたらよいのでしょうか。私見では、貯金と非常勤講師の給与で十分だと思います。貯金は、定年時に退職金をもらった時点で少なくとも数千万円はあるはずです。住宅ローンは終わり、子供はたいてい独立していますから、大してお金はかからないはずです。これだけの貯金があれば十分でしょう。

 その上に、60歳ならまだ働けますから、大学で非常勤講師をするとよいと思います。給与は週に2日・4コマ(1コマ=90分の授業)で年間約 120万円くらいになりますから、貯金の目減りを防ぐことも少しは出来ます。

 ここで大切な事は、他大学に教授として再就職するのではなくて、非常勤講師になるという点です。専任の教授になると「若手の登用を妨げる」ことは既に確認しました。ですから今回は非常勤講師になることです。そして、出勤を週に2日以内にすることです。私の提案の一番大切な所はここです。

 なぜこういう提案をするかと言いますと、第10号で大学教員のアルバイトを論じた中で述べましたように、それまでは週に3日以上の授業があり、教授会もあり、その上アルバイトなどもしたりして、1人1人の学生を大切にする「本当の授業」が出来なかったと思うからです。

 定年となり、お金の心配がなくなった今こそ、そして人生の最後を迎えた今こそ、少ない授業を1つ1つ丁寧なものにして、1人1人の学生と心の交流をする授業にし、若い人達に本当の学問の面白さを伝えるべきだと思います。

 週に2日の授業ならこれが可能なのです。学生の意見が十分に聞けます。それをまとめた教科通信を発行できます。これは私の経験から断言できます。お金をためることばかり考えないで、残り少ない人生を有意義に過ごすことを考えたらどうでしょうか。

(メルマガ「教育の広場」2000年11月15日発行)