内閣法制局の定員は77人。キャリア官僚は独自採用をせず、各省庁から参事官(課長級)以上を出向で受け入れている。ただ、戦後生まれの防衛、環境両省には参事官ポストはない。「法律案件がさほど多くない」 ためという。
この参事官を約5年務めて出身省庁に戻るのが通例だが、「法律にたけている」と目をつけられると、法制局幹部の登竜門とされる総務主幹に起用され、その後の「出世」の道が開ける。こうしたリクルートシステムの中で、明治以来の組織文化が維持されている。
ふだんの仕事では、憲法や法律の解釈についての「意見事務」より、政府提出法案を事前にチェックする「法令審査」の比重が大きい。各省庁がつくった原案をまな板にのせ、法制局と省庁の担当者が「読会(どっかい)」と呼ばれる会合を開いて、ひざ詰めの検討を繰り返す作業だ。
例えば、今年3月9日に閣議決定され、5月12日に成立した「改正金融商品取引法」。金融庁から内閣法制局に相談があったのは昨年夏だった。リーマン・ショックのときに当局も金融派生商品(デリバティブ)取引の実情をつかみきれなかったことを教訓に、デリバティブの監視や証券会社の監督を強めようという狙いだった。
法制局側で金融庁所管の法律を担当するのは第三部。財務省出身の参事官が、まず金融庁の課長補佐と向かい合う。法制局側が課す最初のハードルは「その政策を実行するために、なぜ法律が必要なのか」だ。この場合は「本来自由であるべき取引に制約を課すのには法律の規定が必要」ということでクリアしたが、この段階で法案作成を断念させられることもしばしばあるという。
次の関門は、法案の大枠づくりだ。金商法改正では、企業をグループとして監督する仕組みをどうつくるか、といった点が議論になり、一部で原案が修正された。 全体の枠組みが固まると、最後は逐条審査だ。改正金商法は昨年11月ごろから、金融庁が作成した個々の条文の素案について、用語の使い方、章立てなどをチェック。法案が最終的に固まったのは2月。読会は40回近くに及んだ。最後に長官が目を通して、決裁印である「太鼓判」を押す。そこでようやく閣議にかけられることになる。
今国会に提出された法案のうち、政府提出の法案は63件。総務省、外務省、財務省などの法律を所管する第三部はうち23件を扱った。法案1本ごとに同様の作業が繰り返されている。
審査は連日深夜に及ぶことも珍しくないという。法案によっては、省庁の原案に、法制局の意見や疑義がびっしり書き込まれる。
法制局側は「条文を新設、改正、削除することで調整が必要になる他の法律の条文の有無に電光石火のように気づく知識と豊かなリーガルマインドが必要」(参事官経験者)と胸を張る。一方、省庁側の審査経験者には「まさに『霞が関文学』の権化。若手官僚にとって、法制局を相手にするのは死ぬ覚悟だった」といった声もある。
★ 内閣法制局長官の待遇
内閣法制局長官は、特別職の公務員としては、官房副長官や宮内庁長官などと同格。月額給与は144万4000円で、国会議員の歳費(129万7000円)を上回る。これだけでも、政治家の中には「国会議員より高収入の公務員がいるなんて」などと問題視する声もある。
さらに権力を象徴するように言われてきたのが、五反田・池田山の高級住宅街にある旧長官公邸。延べ床面積1555平方メートルの白亜の御殿は、複数の会議室や、11台の地下駐車場を備え、建設費は11億円。公邸廃止の政府方針に伴って会議室として使われるようになったが、2002~05年には小泉元首相の仮公邸に。「総理大臣公邸より、官房長官公邸より、官僚の公邸の方が上なのかなあ」という小泉節のために、かえって「豪華すぎる官僚公邸」の代名詞になった。
(朝日新聞globe、2010年06月14日)
この参事官を約5年務めて出身省庁に戻るのが通例だが、「法律にたけている」と目をつけられると、法制局幹部の登竜門とされる総務主幹に起用され、その後の「出世」の道が開ける。こうしたリクルートシステムの中で、明治以来の組織文化が維持されている。
ふだんの仕事では、憲法や法律の解釈についての「意見事務」より、政府提出法案を事前にチェックする「法令審査」の比重が大きい。各省庁がつくった原案をまな板にのせ、法制局と省庁の担当者が「読会(どっかい)」と呼ばれる会合を開いて、ひざ詰めの検討を繰り返す作業だ。
例えば、今年3月9日に閣議決定され、5月12日に成立した「改正金融商品取引法」。金融庁から内閣法制局に相談があったのは昨年夏だった。リーマン・ショックのときに当局も金融派生商品(デリバティブ)取引の実情をつかみきれなかったことを教訓に、デリバティブの監視や証券会社の監督を強めようという狙いだった。
法制局側で金融庁所管の法律を担当するのは第三部。財務省出身の参事官が、まず金融庁の課長補佐と向かい合う。法制局側が課す最初のハードルは「その政策を実行するために、なぜ法律が必要なのか」だ。この場合は「本来自由であるべき取引に制約を課すのには法律の規定が必要」ということでクリアしたが、この段階で法案作成を断念させられることもしばしばあるという。
次の関門は、法案の大枠づくりだ。金商法改正では、企業をグループとして監督する仕組みをどうつくるか、といった点が議論になり、一部で原案が修正された。 全体の枠組みが固まると、最後は逐条審査だ。改正金商法は昨年11月ごろから、金融庁が作成した個々の条文の素案について、用語の使い方、章立てなどをチェック。法案が最終的に固まったのは2月。読会は40回近くに及んだ。最後に長官が目を通して、決裁印である「太鼓判」を押す。そこでようやく閣議にかけられることになる。
今国会に提出された法案のうち、政府提出の法案は63件。総務省、外務省、財務省などの法律を所管する第三部はうち23件を扱った。法案1本ごとに同様の作業が繰り返されている。
審査は連日深夜に及ぶことも珍しくないという。法案によっては、省庁の原案に、法制局の意見や疑義がびっしり書き込まれる。
法制局側は「条文を新設、改正、削除することで調整が必要になる他の法律の条文の有無に電光石火のように気づく知識と豊かなリーガルマインドが必要」(参事官経験者)と胸を張る。一方、省庁側の審査経験者には「まさに『霞が関文学』の権化。若手官僚にとって、法制局を相手にするのは死ぬ覚悟だった」といった声もある。
★ 内閣法制局長官の待遇
内閣法制局長官は、特別職の公務員としては、官房副長官や宮内庁長官などと同格。月額給与は144万4000円で、国会議員の歳費(129万7000円)を上回る。これだけでも、政治家の中には「国会議員より高収入の公務員がいるなんて」などと問題視する声もある。
さらに権力を象徴するように言われてきたのが、五反田・池田山の高級住宅街にある旧長官公邸。延べ床面積1555平方メートルの白亜の御殿は、複数の会議室や、11台の地下駐車場を備え、建設費は11億円。公邸廃止の政府方針に伴って会議室として使われるようになったが、2002~05年には小泉元首相の仮公邸に。「総理大臣公邸より、官房長官公邸より、官僚の公邸の方が上なのかなあ」という小泉節のために、かえって「豪華すぎる官僚公邸」の代名詞になった。
(朝日新聞globe、2010年06月14日)