お天気任せで頼りない、と思われがちな自然エネルギー。スペインではむしろ、電力の「主役」として活躍している。
首都マドリードの郊外に、国全土に電力を安定的に送るための心臓部がある。国唯一の送電会社REEが運営する「再生可能エネルギー中央制御センター」だ。
スペイン全土の自然エネルギーによる発電状況が一目でわかる地図が、モニターに映し出される。事故に備え職員1人が監視しているが、ほぼコンピューターで自動制御されている。
「自然エネルギーの安定供給のために、私たちがつくりあげた世界一のシステムだ」。責任者のトマス・ドミンゲス氏は胸を張る。
中核部分は、自然エネルギーの発電量を予測するシステムだ。お天気任せが不安なら、そのお天気を先取りして把握すればいい。
天気予報などの情報を駆使して、24時間後に生み出されるであろう発電量を予測する。予測と実際の発電量との違いは、平均15%以内に収まるという。1時間前まで予測を更新するので、誤差はさらに縮まる。
自然エネルギーを普及させる国の政策により、風や太陽から生まれた電力は最優先で使われる。この「主役」だけでは賄えない電気を補うのが、「脇役」の石炭やガス、水力の発電所だ。24時間前から主役のふるまいを予測した情報がREEから伝えられ、出番に備える。
主役が大暴れしたことがある。2009年12月30日未明、全国で強い風が吹いた。人々が眠りについて電力消費量が減る中、風車は勢いよく回った。REEからの事前予測に基づき、石炭やガスは出力を目いっばい落とした。
電力消費量がさらに減ると、REEは余った電力を隣国のフランスやポルトガルへ輸出した。午前3時40分、電力の54・6%を風力が占めた。それでも停電など問題は起きなかった。
スペインでも、自然エネルギーヘの不安はあった。ドミンゲス氏は「安定供給は克服した問題だ。風力発電がもっと増えても問題ない」と余裕をみせた。
スペインで成長
スペイン全体の年間発電量(2010年)は約2881億㌔ワット時。東京電力と同規模だ。水力を含む自然エネルギーが35%を占め、火力の32%、原子力の22%を上回る。日本では太陽光、風力などの自然エネルギーは約1%で、水力を含めても9%にすぎない。
スペイン風力発電協会のエイキ・ウイルステッド政策部長は「風力が増えれば、その分、ガスの輸入を減らせる。自然エネルギーへの支持は高い」と話す。
スペインで自然エネルギーの開発が本格化したのは1990年代後半。エネルギーの9割以上を外国に頼っていた。この体質から脱し、国際競争力のある国内企業を育てようと、当時の主要政党の意見は一致。安定した風と太陽に恵まれた気象条件に目をつけた。
必ずしも計画的に進まなかった。2004年に政府が太陽光の買い取り価格をとりわけ高く設定すると、想定をはるかに上回る勢いで施設ができた。この「太陽光バブル」は、08年の経済危機を契機にはじける。政府が買い取り価格を下げると、今度は新規の施設が急減。発電業者が裁判に訴える事態にまで発展した。
「現政権は補助金をばらまいた。エネルギー政策は夢ではなく、現実に基づいて築き上げるものだ」。野党・国民党のアルバロ・メダル下院議員は手厳しい。
それでも、世界有数の風車メーカーのガメサ、世界各国で自然エネルギー事業を展開するアクシオナなどの企業が育った。
与党・社会労働党寄りのシンクタンク「イデアス財団」のカルロス・ムラス所長は、社労党が原子力開発の選択肢を狭めたことも影響したとみる。「新たなエネルギーの開発に、官民が力を合わせて取り組む機運を高めた」と評価する。
「あとは意志だ」
日本の電力会社は広報資料にまで「自然エネルギーは変動するし、予測もできない」と記して、慎重な姿勢をとってきた。
季節によって天候が変わりやすい日本では、スペインより予測が難しいとされる。その中で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、風力の発電量を予測するシステムを08年に開発した。青森県六ヶ所村の二又風力発電所で実用化されている。データを蓄積中で、精度を磨いている。NEDOでは、さらに太陽光の予測システムも開発を終えている。
電力の安定供給に詳しい東京大学の荻本和彦特任教授は、当面は火力や水力で供給量を調節すれば、自然エネルギーを増やせるという。さらに増やすには、IT技術を活用するスマートグリッドで対応する必要があると指摘する。
「日本には解決するだけの技術はある。あとは意志の問題だ」。
(朝日、2011年06月29日。岩井建樹、稲田借司)
関連項目
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