「地域間格差は拡大の一途だ」という。本当にそうなのだろうか。われわれ生活者の暮らし向きの実感に近い数字といえば、自分の年収の増減だろう。そこでここ10年(1994~2004年)の1人当たりの個人所得(総務省調べの課税対象所得額)をみた。
首都圏1都3県は0.1%減と厳しい。これに対して鹿児島県の数字は3.6%増。日本一だ。
もちろん鹿児島の所得水準自体は低い(2004年の1人当たり個人所得45位)。だが、物価や家賃が高い首都圏の住民に比べ、実際の暮らし向きは必ずしも悪くない。1996~2006年度の1人当たりモノ消費(商業統計による小売り販売額)でも、首都圏の9.1%減に対し、鹿児島は4.1%減にとどまる(3位)。
勢いの要因は複数あるが、わかりやすいのは農業の頑張りだろう。1994~2004年の農業産出額の増減率は全国トップ。芋焼酎や黒豚などブランド農産品の全国への浸透が利いている。
深夜1時半。こうこうと照る水銀灯の前に並ぶ軽自動車を初老の客が物色していた。売り場面積1万5000平方㍍の巨大な建物の中には、地場生鮮品から仏壇まで30万点以上の商品が並び、老若男女数十人の客の姿があった。鹿児島市から北に80㌔、人口わずか2万5000人の農漁業の町、阿久根市郊外で、地場資本が経営する24時間営業の大型店の光景だ。
業界常識を打ち破る風雲児と呼ばれ、多い月には軽白動車を200台もレジで売るというこの店が、年々商圏人口の減る当地で上げる年商は100億円以上。
本土最南端の活力を実感でき、「格差」の2文字を笑い飛ばしたくなった。
(朝日、2008年05月17日)
(地域経済アナリスト藻谷浩介、協力・日本政策投資銀行地域振興部)