再生可能エネルギー(再生エネ)を固定価格で全量買い取る制度(FIT)は、再生エネをできるだけ増やすため、電力会社に対し、風力などの発電設備を自社の送電網とつなぐことを義務づける。だが、この「接続義務」の原則を阻む大きな壁がある。送電網の貧弱さだ。
日本海からの風が吹きつける。北海道苫前町は「風のかおるまち」がキャッチフレーズだ。風力発電の数は42基。道内の自治体として北端の稚内市に次いで2番目に多い。
だが、最後の風車が建ったのは2000年。「気象条件を考えれば、もっと建てられる環境。できないのは大消費地の札幌などに電気を流す送電網が未発達だから」。町営3基の管理を担当する高田和彦係長は嘆く。
再生可能エネルギー特別措置法が昨夏成立した。電力会社は原則として、再生エネを供給したいとする業者の発電施設との「電気的な接続を拒んではならない」と明記している。「全量買い取り」の根幹をなす条文だ。
しかし、例外規定で、「電気の円滑な供給の確保に支障が生じるおそれがあるとき」は拒める。拒否理由の一つが、送電網の弱さとされる。
最たる例が北海道北部や北西部。風力に適しているものの、人口が少なく、北海道中央部の名寄・旭川地区までつなぐ送電線の容量が小さい。そのため、発電量が一挙に増えると、送電トラブルを起こしかねないという。
FITが導入される7月以降、稼働する風力は全量買い取られるはずだ。北海道電力はそれにもかかわらず、風力を導入できるのは「20万㌔ワット」との制限を公表した。
今年2月、これまでと変わらない抽選方式で発電業者を選別。1㌔ワット時の買い取り価格が約23円という好条件に、これまでで最も多い187万㌔ワット分の応募があった。9倍の狭き門だった。
FITの意義を損なうやり方ではないかとの批判に、北電は「道内で再生エネで発電した電気をやり操りするには限界がある」と弁明する。
北電によると、風力による発電量の割合は電力会社10社中最大の6・7%。1999年以来、送電網への受け入れも拡大してきた。02年、06年、08年と段階的に拡大し、今年3月末時点で計約29万㌔ワットになっている。
仮にFITに基づき、風力の応募分に加えて太陽光の接続申し込み約90万㌔ワット分もすべて受け入れると計約280万㌔ワット。フル稼働が実現すれば、再生エネで北電の平均的な電力約415万㌔ワットの約3分の2に達する。
送電網が充実しているドイツやスペインでは、時間帯によっては再生エネで数十%分の電気をまかなえている。これに対し、道内の現状では全量買い取りの余裕はないと北電はいう。「(再生エネ)事業者にはこうした状況を説明するしかない」。
風力の適地の送電網が貧弱な状況は東北も同じ。そこで資源エネルギー庁の有識者の研究会では、送電網の系統連系の強化策を議論してきた。
4月に出した中間報告は、北海道や東北の風力を出来るだけ生かすよう提言し、各域内の送電網の強化を求めた。さらに北海道と本州を結んで電気を融通する「北本連系」の容量について、今の60万㌔ワットから早期に90万㌔ワット、さらに風力の増え方をみながら増強することを検討すベきだとしている。
だが、その整備には10年以上がかかるとされる。域内の送電網整備は通常、電力各社の負担。提言に沿えば、道内だけで2900億円かかるため、国が例外的に支援することにも中間報告は言及した。
日本風力発電協会によると、今年3月末の風力発電導入量は推計252万㌔ワットで世界13位。1位の中国は昨年末で6千万㌔ワットを超え、原発大国フランスも6位で680万㌔ワットに上る。
同協会の目標は20年に約1100万㌔ワット。同協会の斉藤哲夫企画局長は「FIT導入だけで風力を急増させるのは難しいが、系統連系の整備が進めばその可能性も広がる」と話す。
(朝日、2012年06月14日。森治文、小坪遊)
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