JR静岡駅から束へ7㌔余り。富士山の眺望が美しい日本平の丘陵に、静岡県舞台芸術公園が広がる。森や茶畑の線が深い敷地は約21hr。野外劇場を中心に、二つの室内劇場、稽古場、宿泊施設などが点在する。静岡県舞台芸術センター(SPAC)は、ここで活動している。
初代リーダーは演出家の鈴木忠志(79)。富山県利賀村(現・南砺市)で1982年に日本初の世界演劇祭を始めた「脱・東京」の先駆者だ。95年に故郷の静岡県で芸術総監督に就任。日本の公共劇場では珍しい専属劇団を組織し、芸術公園と、静岡芸術劇場(静岡市駿河区)を拠点に腕を振るった。それを2007年に演出家、宮城聴(59)が引き継いだ。
ここは全国で最も国際色豊かな劇場の一つだろう。毎年、ゴールデンウイ-クに「ふじのくに→←せかい演劇祭」を開催。今年は欧州、中米、豪州から6団体が参加した。
SPACも頻繁に海外へ出る。昨夏は世界有数の芸術祭であるフランス「アビニョン演劇祭」で、アジアの劇団として初めて開幕を飾った。演目はギリシャ悲劇「アンティゴネ」。戦死者の埋葬をめぐる対立を描いたこの劇を、宮城は、敵も味方もみな仏として弔う発想で包み、分断の進む世界への異議を示した。
今は、フランス国立コリーヌ劇場の依頼で、カメルーン出身の作家レオノーラ・ミアノの戯曲「顕(あらわ)れ」に取り組んでいる。テーマはアプリカから欧米への奴隷貿易。無念と悔恨が折り重なる神話的な物語だ。フランスでSPACの舞台を見たミアノが、自昨の初演を託したいと強く望んで実現した企画。9月にパリの同劇場で幕を開け、年明けに静岡でも上演する。
7月下旬、ミアノが舞台芸術公園を訪れた。稽古に立ち会い、「アフリカとヨーロッパとの苦痛に満ちた古い関係に、第三の目を持つ宮城さんが新しい光を当ててくれた」と感激の面持ちだった。
なぜこれほど海外との交流に力を入れるのか。宮城の考えはこうだ。
「静岡の子供たちに、国際水準の仕事をすれば、世界と直接つながれることを伝えたいのです。また、東京などと比べ、静岡では『ヘンな人』に会う機会が少ない。でも世界にはいろいろな人が生きている。多様な状況もある。演劇を通じてそれに触れれば、生きづらさを感じている人はきっと『自分も大丈夫だ』と思える。他者を受け入れる幅も広がるはずです」
公演の前後に解説の時間を設けるなど、観客と作品との丁寧な橋渡しを心がける。県立劇場として中高生の鑑賞教室や子供向けの事業などにも力を入れる。頂は高く、裾野は広く。富士山型を目指す。
公演の前、宮城は劇場の入り口で観客一人一人にあいさつをする。「シェフと顔なじみのレストランなら、たまに少し口に合わない料理が出ても、その店にまた行くでしょう。劇場ともそんな関係になってもらいたいから」。芸術総監督。肩書はいかめしいが「中小企業のおやじのような仕事です」。=敬称略。(朝日。2018,08,21夕。山口宏子)
感想
私は静岡県民ですが、ここで紹介されていることの半分しか知りませんでした。これは県の事業であって、静岡市の事業ではありませんから、私が知っていてもおかしくないはずです。
外国と交流するのも結構ですが、静岡市だけが外国と交流するのではおかしいと思います。
東京に住んでいた時は、知らず知らずに自分が日本の中心にいると思って、地方の皆さんのことは考えていなかったと思います。ド田舎のここに移住して、辺境から見ることを強いられるようになりました。
静岡市の田辺市長も、川勝知事の県都構想には強く抵抗していますが、静岡市一局集中には黙っています。県立図書館を建て替えて巨大図書館を作ろうとしていることには黙認しています。私見では、この際、県立図書館と市町立図書館との役割分担を根本から考え直そうと提案するべきだと思います。静岡市は静岡県下のすべての市町村の代表としての役割も期待されていると思います。