マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

山村留学、その2

2016年10月28日 | サ行

「誰もが光るもの持つ」信じて

子どもたちの登校後、長野県大町市の山村留学施設「八坂美麻(みあさ)学園」は静まりかえる。1階の指導員室を除いては。

 ほぼ毎朝9時半から、6人の指導員が子ども一人ひとりの様子について情報交換し、個性や、特性を生かした指導方法を考える。学園生は31人。議論は3時間を超えることもある。9月のこの日は11月の収穫祭に向け、子ども一人ひとりが考えた体験発表のアイデアを持ち寄った。

 「おやきにどんな具材を使うか地元の人にアンケートして、自分で作ってみるって」、「いろいろな材料で作って、人気投票してもおもしろいね」。経験豊富な統括主任の赤坂隆宏さん(36)と、学園に来て10年になる吉沢かおりさん(37)が、ほかの20代の4人にアドバイスする形で進む。

 学園で山村留学を経験した邑上貴厚さん(26)と伊藤僚さん(24)が指導員になって驚いたのは、打ち合わせの濃密さだった。「こんなに見られていたのか」、「大勢にフォローしてもらっていたんだ」。立場が変わって初めてわかった。

 子どもたちは月の半分を地域の農家で暮らし、残り半分は学園で集団生活をする。学園では6人が子どもたちと寝食を共にし、細かな変化に目配りする。親に代わって学校と連絡を取り合い、学習や生活習慣、人間関係に気を配る。離れて暮らす親との連絡も欠かせない。地域との良好な関係づくりも大切だ。学校が休みの週末には、農作業や自然体験などに引率する。

 「誰もが本来、光るものを持っている」と赤坂さん。そこに光を当て、自ら伸ばせる力を引き出す──。そんな信念が、多忙な仕事を支える。

 学園には、不登校や発達障害などの子を持つ親からの相談が増えている。だが、赤坂さんは「山村留学は万能ではない」と言う。環境が変わって心や体に変化が表れる子がいる一方、そうでない子もいる。親元で暮らした方がいいと思われる場合などは入園を断っている。

 繊細な子、環境になじめなかった子、親の愛情に飢えた子…‥.。まれに途中退園する子どももいる。無念の思いで見送った日を、赤坂さんは忘れられない。    (朝日、2016年10月22日。菅野雄介)

感想

学校教育は個々の教師がするものではなくて、「校長を中心とする教師集団」が行うもの、というのが私の考えです。

 この学園(学校ではなくて、留学生の寄宿舎ですが)はそうなっていると思います。生徒数31人、指導員6人だからできる、という意見もあると思います。しかし、これを目指してできる限りの努力をしている学校がどれだけあるでしょうか。

 世間の人々も、学校の問題が起きると「教師の問題」と考えるのではなく、「校長の問題」と考える人がどれだけいるでしょうか。
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山村留学

2016年10月20日 | サ行

       山村留学40年で1万1000人

 長野県の旧八坂村で1976年に始まったとされる山村留学。北海道の農村や鹿児島県の離島など、これまでに全国で約1万1千人が都会で暮らす親や友達と離れて住民票を移し、農山漁村で義務教育を受けた。

 NPO法人「全国山村留学協会」(東京)がまとめた2013年度の報告書によると、2013年度は24道府県の68市町村で山村留学が行われ、小学生は約360人、中学生は約200人が参加。小学生の3割、中学生の半数以上は2年以上続けている。

 その一方で、小学校は89校、中学校は42校が受け入れ態勢をとったが、25小学校、6中学校では山村留学生が集まらなかった。これまでも、留学生が集まらずに受け入れをやめたケースも少なくない。協会の担当者は「カリキュラムや施設に不備があるなど、留学生の教育より地元の学校の存続に重きを置いたような所もある。それでは親は預ける気にならない」と話す。

 協会は文部科学省の委託で「山村留学ガイドライン」を作成、ホームページで公開している。
・責任者や費用は明確か
・子どもの様子を定期的に情報発信しているか
・傷害保険に加入しているか
・地域の特色を生かした体験活動はあるか
などのチェックリストもある。

 1980年代以降、受け入れ地域が増えたが、留学生は2004年度の860人をピークに減少傾向だ。学校の統廃合や、里親の高齢化などでやめた地域が目立った。受け入れ自治体が「平成の大合併」でなくなったこともあるという。2009年度からは500人台で推移している。
  (朝日、2016年10月13日)
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茶草場(ちゃぐさば)農法

2016年10月09日 | タ行

 里山維持、味や香り増す

 お茶の名産地、静岡県掛川市東山地区。年内最後の摘み取り時期になる9月下旬に訪れると、一風変わった風景が広がっていた。

 茶畑の奥にはススキやササが伸び放題。これらの草が東山地区で行われている伝統的な栽培方法「茶草場農法(ちゃぐさばのうほう)」を支えている。

 東山地区の茶作りは1年がかりだ。春から秋までの摘み取りが終わると、茶園の周りで伸びたススキやササを刈り取る。乾燥させ、10センチ程度に細かくした後、茶園の畝(うね)と畝の間に詰める。作業が終わると、もう春が間近だ。

 敷き詰めには、肥料や保水性の向上、雑草防止の効果があり、お茶の昧や香りが増すという。

 メリットは茶の側だけにとどまらない。畑の周りでは、ススキの他にも、秋の七草のハギやクズ、フジバカマ、オミナエシが見られた。地方によっては姿を消しつつある秋の七草は、この茶草場では、全種類が見られるという。絶滅のおそれがある動植物の姿を目にする機会も多い。

 毎年人が手を入れることで維持される里山の環境が茶草場にはある。地域が大切にしてきた150年の農法が、お茶の昧と生物多様性にとって重要な環境も守ってきた。東山のお茶PR・販売店「東山いっぷく処」の代表杉山敏志さん(65)は「お茶がおいしくなって、自然にも優しいってことは、この農業はいいことをしているんだろうと思う」と控えめに誇る。

 取り組みが評価され、国連食糧農業機関(FAO)が認定する、世界農業遺産にも2013年に選ばれた。選考理由では、「伝統的農法の模範例」とされ、「Chagusaba」の名も記された。

 秋の刈り取りなどの体験や、地元の農家がガイドする散策など、外部の人にも農法を身近に感じてもらえる催しも企画する。農家で、ガイドも務める山城みや子さんは「お茶のうまさだけでなく、私たちが守ってきた農法、1年をかけたお茶作りの工程を知って欲しい」と話す。
 (朝日、2016年10月04日夕刊。小坪遊)
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読書感想文を考える

2016年10月02日 | タ行

 1、朝日新聞の記事

読書感想文マニュアルの記事に対し、読者から多くの反響をいただきました。感想文の書き方を示したマニュアルを子どもたちに渡すのは是か非か。主な声を紹介します。

 9月2日付の記事では、今年夏、童話「シンデレラ」を例に書き方を細かく指南するマニュアルを或る小学校が配ったところ、SNSで賛否の意見が飛び交う議論になったことを紹介した。記事への感想や意見の投書でも、賛否は分かれた。

 名古屋市内の中学校の国語教師、伊東達矢さんは、マニュアルの活用を提案する。生徒が提出してきた夏休みの宿題の読書感想文のなかには、書きなぐったような文字が連なっているなど、嫌々書かされたような印象を受けるものもあった。任意提出にしたら、ほとんどの生徒が出さなくなると考える。「ならばいっそ、マニュアルを整備し、制限された状況で伝えるべきことを文章化する訓練として感想文をとらえた方が、生徒たちにとって有益なのでは」。

 三重県鈴鹿市で小中学生対象の国語教室を開いている川戸恵子さんは、多くの子どもが感想文に苦手意識を持っていると感じる。自身も小学生の頃、読書は大好きだったのに感想文の書き方がわからず、苦しんだ。そんな経験もあって、感想文の「型」を教えるのは、安心して書くために必要だと思う。

 「型に沿って書けば、形の上では画一的に感じられるかもしれないが、子どもが本を読み、自分の力で書き上げたなら、まずそれを評価していくことが大切。それを出発点にして、書き方の工夫をしていけばいい」と指摘する。

 「マニュアル本は使い方次第でとても有効」との意見を寄せたのは、神奈川県の主婦だ。今年の夏休み、小学1年の長男に出された宿題の読書感想文の提出は任意だったが、苦手なひらがなを学ばせるために取り組ませた。マニュアル本を参考にしながら書かせたところ、感想文コンクールの学校代表に選ばれた。長男は生き生きとした顔を見せたという。

 一方、マニュアルに疑問を投げかける声も根強い。

 札幌市の元大学教授、伊藤進さんは、マニュアルを与えると、「課題を表面的に処理し、形だけ整った文書を書く習慣をつくってしまう弊害がある」という意見だ。大学でリポートなどの書き方を教える授業を担当した。大半の学生は調べたり考えたりしたことを簡潔、明瞭に書くスキルを身につけないまま入学してきていたという。「小学校から高校まで、書くことをもっと系統的に学ばせる必要があると思う」。

 大津市の元小学校長、安田直次さんは「目先の要求に負けてマニュアル化して済ませようとする現代教育に通底する問題ではないか」と感じた。感想文のマニュアルは必要ないが、子どもたちに「書き方」を教えることは大切だと思う。

 現役の教員時代、感想文を書く際の頭の整理の仕方を考えた。①読んだ本について、「○○と書いてあった」(A)と「○○と私は思った」(B)の二つに分けて書き出す、②Bの中から大事だと考えるものを三つ選び、その根拠となるAを探す、③BとAを組み合わせて文章を構成する──というものだ。様々な文章を書くのに応用できると考えている。

 児童生徒に感想文を課すこと自体に反対という意見もあった。千葉県鴨川市の主婦、石川真理さんは本を読み終えた後の余韻を味わうのが楽しいのに、感想文で結論を急がせる必要があるのか疑問だという。

 どうしても感想文を書かせたいなら、たとえば金子みすゞの詩を一つ指定し、「他人と同じにならないように感想文を書いてくるように」と指示してみては、と提案する。違う感想文を読むことで、「『私はこう思ったけど、○○さんはあんな考え方をするんだなあ』と新たな発見があるはず。それこそ金子みすゞの詩にあるように、『みんな違ってみんないい』教育だと考える」と結んだ。
(朝日、2016年9月23日。杉山麻里子)

 2、牧野の感想

 ・先生自身が文章を書いていない。生徒に言うことは、原則として、自分のできることか実行している事でなければならない。自分のできない事を生徒にやらせる場合は、「自分は出来なくて困った」とかの「反省」を言ってからにするべし。

・読書の習慣を付けさせることと文章を書く練習をさせることとを分けるべし。文章を書く練習をさせるには、書きたくなるような問題を出せば好い。特に学校の在り方や教師の態度や教え方には生徒はいろいろな不満を持っている。こういう「切実な問題」をテーマにすれば生徒は真面目に書くはず(拙著『哲学の授業』を参照)。

・生徒に提出させたものには、先生はそれこそ「読んだ感想」を書いて返すべし。自分がしていない事を生徒にやらせるな。更に、「教科通信」を発行して、いくつかのものを載せて、先生の考えなどを書くべし。これがあると、生徒はやる気が出る(この点も拙著『哲学の授業』を参照)。

・要するに、生徒の姿は先生の姿を映しているだけです。
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