補助金ゼロのまちづくり
「地方創生」のかけ声がかまびすしくなるなかで、「家守」(やもり)を増やそうと地道に活動する市民がいる。
ヤモリといっても、トカゲに似た生き物のことではない。むかしの江戸で借地・借家を管理してまちづくりの世話をした民間人のことだ。江戸時代後期、町人人口約60万人と言われた江戸のまちに、約2万人いたと伝えられる。
まちづくりの主役はあくまで市民。江戸時代のような民間主導のかたちで、さびれゆくまちを盛り上げよう──。そう呼びかけるトークイベントに先日、顔を出した。
語り部は、北九州市の商店街再生を手がけ、今年5月に国土交通大臣賞を受けたまちづくり会社「北九州家守舎」代表を務める建築家の嶋田洋平さん(38)である。
会場は、東京都豊島区にあるおしゃれなカフェ。トークが始まり、覚醒剤撲滅キャンペーンをもじった刺激的なフレーズが音声とともにスクリーンに映し出された。
「あなたは補助金やめますか? それとも人間やめますか?」
「現代版家守」の理念の柱は「市民の自立」と「補助金ゼロ」だ。国や自治体は地域活性化のための補助金メニューを用意しているが、嶋田さんは「補助金は麻薬と同じ。市民の自立心をそぐような補助金に頼るな」と訴える。
家守構想では、建築家や飲食店オーナー、研究者、市民らが「家守チーム」をつくり、不動産オーナーとともに知恵を出す。例えば身銭を切って空き店舗におしゃれな飲食店をつくり、にぎわいを取り戻す。その結果、補助金がなくても収益が上げられるまちができあがれば成功だ。
現代版家守の提唱者で、岩手県紫波(しわ)町の町有地で進む公民連携事業「オガールプロジェクト」など、多くの補助金に頼らない試みを支える都市・地域再生プロデューサーの清水義次さん(65)は言う。
「税金の源は民間のかせいだお金。民間が補助金に頼るのは逆転した発想だ。人口減少時代のいま、事業をシビアに考え、空いた建物や土地があればそれを使い、新しい産業と雇用、利益を生んで税金を払う。その当たり前の姿に戻さなければ、いつか財政は破綻し、まちは死んでしまうかもしれませんよ」
むろん補助金を全否定はしない。現代版家守の育成と普及を図るリノベーションスクールという事業は補助金を受ける。ただそれ以外は、とことん民間の自立にこだわる。
安倍晋三首相は「ばらまき型の投資は断じて行わない」と宣言した。けれど、どうも国・自治体の議論は予算配分に熱が入りがちだ。
公共事業費の消化が追いつかないとか、来年度予算で地方創生特別枠をつくるとか。そんな話を聞くと、またぞろ選挙目当てのどんぶり勘定にならないかと心配になる。
かたや現代版家守は最近にわかに注目を浴び、清水さんや嶋田さんは引っ張りだこだ。予算額でははかれない、市民のがんばりを応援する環境づくりに期待したい。
(朝日、2014年10月26日。編集委員・前田直人)
「地方創生」のかけ声がかまびすしくなるなかで、「家守」(やもり)を増やそうと地道に活動する市民がいる。
ヤモリといっても、トカゲに似た生き物のことではない。むかしの江戸で借地・借家を管理してまちづくりの世話をした民間人のことだ。江戸時代後期、町人人口約60万人と言われた江戸のまちに、約2万人いたと伝えられる。
まちづくりの主役はあくまで市民。江戸時代のような民間主導のかたちで、さびれゆくまちを盛り上げよう──。そう呼びかけるトークイベントに先日、顔を出した。
語り部は、北九州市の商店街再生を手がけ、今年5月に国土交通大臣賞を受けたまちづくり会社「北九州家守舎」代表を務める建築家の嶋田洋平さん(38)である。
会場は、東京都豊島区にあるおしゃれなカフェ。トークが始まり、覚醒剤撲滅キャンペーンをもじった刺激的なフレーズが音声とともにスクリーンに映し出された。
「あなたは補助金やめますか? それとも人間やめますか?」
「現代版家守」の理念の柱は「市民の自立」と「補助金ゼロ」だ。国や自治体は地域活性化のための補助金メニューを用意しているが、嶋田さんは「補助金は麻薬と同じ。市民の自立心をそぐような補助金に頼るな」と訴える。
家守構想では、建築家や飲食店オーナー、研究者、市民らが「家守チーム」をつくり、不動産オーナーとともに知恵を出す。例えば身銭を切って空き店舗におしゃれな飲食店をつくり、にぎわいを取り戻す。その結果、補助金がなくても収益が上げられるまちができあがれば成功だ。
現代版家守の提唱者で、岩手県紫波(しわ)町の町有地で進む公民連携事業「オガールプロジェクト」など、多くの補助金に頼らない試みを支える都市・地域再生プロデューサーの清水義次さん(65)は言う。
「税金の源は民間のかせいだお金。民間が補助金に頼るのは逆転した発想だ。人口減少時代のいま、事業をシビアに考え、空いた建物や土地があればそれを使い、新しい産業と雇用、利益を生んで税金を払う。その当たり前の姿に戻さなければ、いつか財政は破綻し、まちは死んでしまうかもしれませんよ」
むろん補助金を全否定はしない。現代版家守の育成と普及を図るリノベーションスクールという事業は補助金を受ける。ただそれ以外は、とことん民間の自立にこだわる。
安倍晋三首相は「ばらまき型の投資は断じて行わない」と宣言した。けれど、どうも国・自治体の議論は予算配分に熱が入りがちだ。
公共事業費の消化が追いつかないとか、来年度予算で地方創生特別枠をつくるとか。そんな話を聞くと、またぞろ選挙目当てのどんぶり勘定にならないかと心配になる。
かたや現代版家守は最近にわかに注目を浴び、清水さんや嶋田さんは引っ張りだこだ。予算額でははかれない、市民のがんばりを応援する環境づくりに期待したい。
(朝日、2014年10月26日。編集委員・前田直人)