マキペディア(発行人・牧野紀之)

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ながく、牧野紀之の仕事に関心を持っていただき、ありがとうございます。 牧野紀之の近況と仕事の引継ぎ、鶏鳴双書の注文受付方法の変更、ブログの整理についてお知らせします。 本ブログの記事トップにある「マキペディアの読者の皆様へ」をご覧ください。   2024年8月2日 中井浩一、東谷啓吾

オルグ

2007年07月21日 | ア行
     オルグ

 1、社会運動で個人の採る態度を分けますと3種あります。
  A・相手と直接戦う。
  B・自分のことを反省し、自分の向上を目指す。
  C・第3者に働きかける、

 こう整理しますと、オルグとはAでもBでもなくCをすることだと分かります。

 2、これをオルグと言う習慣は、多分、オルガナイザー(組織者)の略語として、主として左翼運動の中で定着したのだろうと思います。ロシア語から来たというなら元はオルガニザーチアだったかもしれません。いずれにせよ、そういう活動をする人のことを意味する場合もありますが、そういう活動自体を指すことも多いと思います。

 3、オルグはセールスあるいは営業活動に似ています。事業に営業(広義)が必要不可欠であるように、思想運動や社会運動にはオルグが必要です。仲間を増やすことは目的達成に必要だからです。

 4、問題はどういうオルグをするかだと思います。事業にとってどういう営業をするかにその事業主(会社)の考えと性格が良く出るように、オルグの仕方にはその思想運動の性格が良く出ると思います。

 行き過ぎる傾向のある点でも両者は良く似ています。最悪のセールスがねずみ講であるように、最悪のオルグは「友人や家族をオルグしてくれ」という「オルグのオルグ」でしょう。

 思想運動には自分たちの質的向上をはかる面と人数(仲間)を増やす面がありますが、前者も実質的には(自分のオルグですから)オルグであることを理解して、自己向上を中心にしてやっていくのが正しいのではないかと思います。

 しかし、現実には、何か社会的活動に目覚めた人がすぐにも考えることは、どうやって他の人に知らせ、理解してもらい、仲間になってもらうかということです。

 5、左翼運動のオルグが嫌われるようになってから、「(やるなら)一人でもやる、(悪い事は)一人でも止める」という考えないしスローガンが出てきました。小田実さんや宇井純さんの名が知られています。

 これは立派な態度であり、それなりの成果を挙げていると思いますが、歴史的に見ると、やはり、オルグをうまく組織的に行った有能なリーダーの率いた運動の方が大きな成果を挙げているのも、残念ながら事実だろうと思います。

 キリスト教でもイスラム教でもそうですし、創価学会もそうです。もちろんいわゆる社会主義革命でもそうでした。

2007年07月18日 | ハ行
     話

 「お話を聞く」という言い回しをよく耳にします。いつも違和感
を感じます。私の感覚では「お話を」と来たら「伺う」と受けてほ
しいのです。「聞く」と受けるなら「話を」と言ってほしいのです。

 しかし、TVやラジオを聞いていると今や8割から9割が「お話
を聞く」です。そのためか、学生諸君に聞くと「お話を聞く」しか
知らないらしいのです。

  用例

1, ユダヤ系の英国人女性○○さんに話を聞く機会があった。
  (2001,11,4,朝日)

2, お話をうかがう
  (轡田隆史『考える力をつける本』)

  3, お話をお聞きする
  (2001,12,11,NHK)


バカロレア

2007年07月12日 | ハ行
     バカロレア

 6月になるとフランスではバカロレアという試験が行われます。
TVニュースでもよくその試験の様子が報じられます。フランスの
国民的イベントという感じです。

 バカロレアの試験に合格するか否かはその後の人生を決定する別
れ道になるから、本人も親も真剣になります。

 バカロレア(略称、バック)は中等教育終了時に受ける国家試験
で、これに合格すると大学入学資格が得られます。これ以外に大学
の入学試験はないから、これが実質的な入学試験に当たります。

 これは高校生にとってかなり厳しい試験です。特に哲学の試験は
4時間に及び、最も難しい試験の1つです。

 問題例は次の通り。

 01、芸術作品は背徳的であってもよいか。
 02、無償の行為は可能であるか。
 03、情熱は思慮分別と共存できるか。
 04、もし世界に意味がないとしても、哲学はなお目的を持ちうる
か。

 こういった問題について4時間かけて論述するのです。
 (ラジオフランス語講座2007年06月04日)


節(ふし)

2007年07月07日 | ハ行
     節(ふし)

 1、薄いピンクのスーツ姿の田中〔真紀子〕氏は約1時間、新潟
市内で約 600人を前に「真紀子節」をふるった。
 (2007年07月04日、朝日)

 2、節には「音楽の旋律」という意味があります。新明解にはそ
こにさらにこう書いてあります。「浪花節のもじりで、その人独特
の口調や演説調を「~ぶし」と言うことがある」。

 3、問題はこの意味で節を使う場合、「真紀子節をふるった」と
言うのか、です。朝日の記者は「熱弁を揮(ふる)う」の連想でこ
う言ったのでしょう。

 「揮う」で新明解を見てみますと、「熱弁を揮う」の所には「発
揮する」という説明があります。やはり「真紀子節を揮う」は少し
似合わない気がします。

 4、ではどう言ったらいいのでしょうか。「真紀子節を聴かせた」
というのはどうでし
ょうか。

 5、辞書にも私が探した限りではヒントになるような事は何も載
っていませんでした。こういう使い方をすることが少ないからだと
思います。

 昔、ある生徒が試験の答案にこんな事を書いていました。

  ここで一句。
  名調子 そら始まった 牧野節 

 こういう使い方が普通だと思います。


2007年07月03日 | カ行
     壁

 壁という言葉について日頃疑問に思っている事をまとめたい。

 1、まず、「ベルリンの壁」はなぜ「壁」と訳し、「塀」と訳さ
ないのか。前から不思議に思ってきました。

 原語はもちろん Berliner Mauer です。この Mauerを「壁」と訳
しているのです。辞書でこれを引くと、「壁、外壁、塀、城壁」が
載っています。

 私の感じでは、「壁」という日本語でまず考えるのは「部屋の壁
」でしょう。しかるにこの「壁」にはドイツ語なら Wand という単
語があるのです。この Mauerは「塀」なのです。土塀などという時
の「塀」の巨大なものなのです。

 しかし、逆に考えて、ベルリンの壁を「ベルリンの塀」と呼んだ
ら、少し変な感じがすると思います。「壁」という語に慣れている
からかもしれませんが。

 2、次にそういう具体物としての「壁」でなく、「それを突き破
らないと先へ進むことができない障害」(新明解)という意味での
「壁」については、「壁は厚かった」という表現が多く見られるの
ですが、「壁は高かった」ではないのか、という疑問を前から持っ
ています。

壁を「突き破るべきもの」と考えると「壁は厚かった」となると
思います。それに対して壁を「乗り越えるべきもの」と考えると「
壁は高い」になると思います。

 最近の新聞での用例を挙げます。

  1, 〔テニスの中村藍子にとって〕かつて世界のトップに立った
元女王の壁は厚かった。
 (朝日、2007年06月28日)

  2, ヨシムラは1980年の第3回大会も制したが、その後はメーカ
ーの壁が厚い。〔バイクの8耐の話〕
 (朝日、2007年07月21日)

3, 異文化の壁を自然体で超え、若手登竜門の頂点に立った。
 (朝日、ひと欄。2007年07月02日)

  4, (「名人とは」という質問に対して)「将棋界の歴史そのも
のでいまだ遠い存在。やっとA級にたどりついたが、壁はより高く
感じる。だからこそやりがいもあり、頑張りたい」
 (2007年07月03日、朝日、行方尚史八段)

5, それだけ日本車は、韓国市場ではハードルが高い〔なかなか
買ってもらえない〕。
 (朝日、アン・ヨンヒのコラム。2007年06月30日)

  6, 彼がいう「日本で陸上をメジャーにするチャンス」には違い
ない。だが、そのハードルは高い。
 (朝日、2007年07月22日)

 ここには6種の表現を集めましたが、私見では、「壁は厚かった
」と言う人の方が圧倒的に多いと思います。用例 4は珍しいと思い
ます。

用例 3は「乗り越えるべきもの」としての壁の方になりますが、
こういう言い方なら割とあるかな、とも思います。

同じ意味での「ハードルが高い」は日本人はあまり使わないと思
います。用例 5の筆者は韓国人です。ドイツ語でもやはり「ハード
ルが高い」と言います。韓国語でもそうなのでしょうか。

 こう書いた後に用例 6が出ました。日本人でも使うようになって
きているのかもしれません。

随分昔の話になりますが、かつて巨人が9連覇していた頃、パ・
リーグで優勝したチームの監督が巨人の川上監督に「厚い胸をお借
りします」という電報を送ったという新聞記事を読んだことを好く
覚えています。もちろん日本シリーズでの対戦のことです。

「胸を借りる」を使うならば、やはり「厚い胸を借りる」しかな
いと思います。

   (2007年07月03日)(2007年07月23日、書き換え)