えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

殻ちゃん~34回

2015-02-03 08:54:37 | 歌う

            *  殻ちゃん~34回  *

   ❤ 聖堂の絵ガラスをおもう八月のゆうべの道に黒瑠璃揚羽    松井多絵子

 QA会の講習を終え、ビルから出た殻ちゃんは走り続ける。前方に塔君が歩いている。ようやく追いつく。8月上旬の夕方。

   殻 ▴ 「足立さーん、ちょっとだけ教えてください。数学の問題、、」

   塔 ▴ 「ああ、ちょうどよかった。水口さんに聞きたいことがあって。遊歩道へ行こう」

 二人は少し歩いて舗道を離れ、遊歩道の入り口に来る。糸杉の並木、その木陰にだれも座っていないベンチがある。やや離れて二人は座る。

   殻 ▴ 「わたしに聞きたいことってなあーに?」

   塔 ▴ 「その前に、数学の何がわからないの?」「この問題か、ひねってるからなあ」

    塔君は殻ちゃんのプリントを見ながら、メモにY= と書き赤ペンでここが大事なところ
       だと3度繰り返して説明する。殻ちゃんが理解したのち、話し出す。

   塔▴ 「水口さんのオバアサンが三陸にいるって言ってたでしょう。ボクの母も三陸出身
       なんだ。今はファッション・ライターだけど以前は歌手だったらしい。でもその頃の
       ことは話さないし、祖父母もオジにも長いこと会っていないんだ」  

   殻▴ 「実は、わたしのママも話さないの。パパは芸能関係の仕事をしていて忙しいし、
      ママも働いていて、近くの図書館が私の託児所だったわ」

   塔▴ 「キミがお祖母さんに会いに三陸へ、って言ったことを母に話したけど何も、、  」
      「キミはいいなあ、お父さんがいて。ボクには父がいないんだ。」

   殻▴ 「ほら、あそこに黒瑠璃揚羽が飛んでるわ。パリのノートルダムのステンドグラス、
        ってあの蝶みたいなんでしょう?わたしもパリに行きたいなあ」

 塔君は黙って夕空を見上げていた。その塔君の横顔を殻ちゃんは見つめていた。 

                       まだ続きます、よろしくね。 松井多絵子