これはピアニスト、ホレスパーランのアルバムだ。ブルーノート盤で録音は'60年4月になっている。なんともいえない、上品でスウィング感を内に秘めた高級ジャズアルバムだ。ホレスパーランといえば、サイドメンとして数枚のアルバムで聴いたことはあったけどリーダーとしてはこれしか持っていない。彼のことは、優れたピアニストとしてだけではなくて彼の独特のハンディキャップのことをずっと前に聞いて知っていた。ピアニストとしては致命的ともいえる右手の指のハンディキャップだ。人から話だけ聞いてるとちょっと想像がつかなかったが、確か'90年前後だったと思うけど、日本にやってきた。一人で来て水橋ゴンさんなんかがサイドメンをやっていた。聴きに行って実際に弾いているところを見たら本当にビックリした。想像していた以上の障害だ。右手は真ん中の3本が全く使えない。親指と小指しか使えないのだ。どうやって弾くのか眼を皿のようにして見ていた。細かいことは説明できないけど、とにかく工夫に工夫を重ねて奏法を開発し、それを身につけたんだ。ひとから聞いていたのとは随分ちがう弾き方だった。まあよく考えたものだ。眼を閉じて聴いてると十分満たされたサウンドだ。素晴らしい。音がとにかく上品だ。セットが終わって休憩時間にちょっと話をさせてもらった。今住んでいるコペンハーゲンの郊外の自宅の写真やそこで畑仕事をしている写真を見せてもらった。穏やかに小声で話していたけど、そばにいると一流のミュージシャン独特の雰囲気が伝わってきた。本物だ。彼は小さいときにポリオにかかり、そのリハビリの一環としてお母さんがピアノを与えたところ、夢中になってしまい、そのままピアニストになってしまったらしい。頭脳を生かして医者や弁護士、というのなら分かるけど、よりによって一番不可能と思われる職業を選んだのだ。なんというガッツだ。立派にジャズピアニストとして成功を収めて人間としても素晴らしい。もう尊敬の念しか湧いてこない。セカンドセットを聴いているときは、ずっーとジーンとしていた。
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