とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

書評『怒り』(吉田修一作)

2016-03-27 07:35:40 | 読書
 名作です。

 ある悲惨な殺人事件の犯人が逃亡している。その犯人に特徴が似ている3人の男が平行して描かれる。3人とも何か秘密を持ち何か暗い過去を持つ。それを取り巻く人々もそれぞれ不幸な過去を引きずっている。そしてそれを追う刑事にもドラマがある。犯人はだれなのか。犯人を追うようにストーリーは展開する。

 人間は一度でも失敗すると中々立ち直れない。自分一人で生きているのならばそれは可能である。しかし私たちは「世間」の中で生きている。「世間」は失敗した人を中々ゆるしてはくれないのだ。

 失敗してしまった人間は心が委縮してしまい、心を小さくしながら生きていくしかない。人を信じられなくなり、信じられない自分を嫌いになりながら生きていく。息苦しくなりなんでこんな辛い人生を送らなければいけないのかと考え始める。一度失敗してしまったら、二度とあの穏やかな心をとりもどせないのか。ただ生きていくだけ。こんな人生なんの意味があるかのか。

 しかし生きたい。縮こまりながらもなんとか生きていたい。だからこそだれかを信じたい。だれかに信じてもらいたい。自分にとって大切な人を信じなければならない。その人に信じてもらいたい。

 この切実な思いが痛いほど伝わってきます。最後は涙なしには読めません。

 作者の人間観の鋭さがいたるところに出てきます。そのたびにハッとさせられ、そうなんだよねと心の中で何度も相槌を打っていました。そしてそのたびに自分の生き方を見つめなおしてしまいます。

 必読書です。
コメント (1)
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