とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

書評『天才と名人』(長谷部浩著)

2016-03-08 05:57:44 | 読書
 中村勘三郎と坂東三津五郎というふたりのすばらしい役者が相次いで亡くなった。ふたりの思い出とともにふたりに対する思いを綴った本である。

 役者は経験と体力が必要なので、絶頂期は50代から60代だと思う。その働き盛りの時期に亡くなったのだから、本人たちも、関係者、ファンもみんな無念であろう。悲しくて悔しくてたまらない。

 歌舞伎という伝統と革新を併せ持った演劇の中で、主に勘三郎は革新を、三津五郎は伝統を受け持っていたが、とは言えこれは二人が協力していたからこそできた。


 勘三郎の活躍はすごかった。コクーン歌舞伎、平成中村座、野田秀樹との仕事、さらに歌舞伎以外の演劇公演、休みなく働き続けた。勘三郎のおかげで歌舞伎は「伝統芸術」という枠に収まることを逃れることができ、演劇としての自由さを再び獲得できた。単純にお芝居を楽しむために歌舞伎座に行くようになったのである。ひとつひとつの活躍が今の鮮明に思い出される。

 三津五郎はどちらかというと地道な努力をする人であった。奇をてらったことはせず、自分のできることをきっちりする。しかし自分のできることを高める努力をつねにおこたらない。そんな感じの人だった。私にとっては2012年に『芭蕉通夜舟』を観たのが最後だった。やさしさと厳しさのある三津五郎らしい舞台だった。

 歌舞伎座の建て替えのたみにここ10年ほど、歌舞伎役者はいそがしすぎた。そして次々病で倒れている。今のような休演日のない興業はそろそろやめたほうがいいのではないだろうか。こういう意味での革新も必要な気がする。

 ふたりのご冥福を改めてお祈りします。
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