とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

映画評『完全なるチェックメイト』

2016-03-21 18:03:07 | 映画
 ボビーフィッシャーというアメリカのチェスの名人の物語。

 ボビーフィッシャーは自分の母親がソ連のスパイと付き合っていたり、どうもその出生に関してもはっきりしないところがあった。しかし小さいころからチェスの才能が発揮され、どんどん強くなっていった。その当時のチェスのチャンピオンはソ連のスパスキー。ふたりは国の威信をかけての勝負が始まる。しかし、ふたりにとってそれは重圧であった。ふたりとも精神に異常をきたしながら勝負は進んでいく。最終的にフィッシャーが勝つことになるのだが、もはや彼の心はボロボロであった。

 ボビーフィッシャーの生涯についてはNHKでドキュメンター番組が放送されていたので知っている人も多いかもしれない。ドラマチックな人生であった。

 特に冷戦のころはあらゆるものが国を威信をかけての勝負であった。オリンピックもそうであった。金メダルをとるためにソ連はなんでもやっていた。おそらく最近のドーピングの問題もその名残なのであろう。

 その国の威信をかけての勝負にたった一人の人物が矢面に立たされる。これは異常な世界だ。この重圧はものすごいものであったに違いない。「国家」は人間の精神を究極にまで追い詰め、そこで必死に戦いを挑ませる。「国家」という巨大な幻想と戦わなければならないフィッシャーとスパスキー。ふたりは最後にお互いを認め合ったように思えた。究極まで追い詰められながら、必死に戦い、そして逆に人間の心を取り戻すふたりの姿に、私は感動させられた。

 チェスはもうコンピューターに勝つことはできない。今度はコンピューター同士が戦うことになるのだろうか。囲碁でアルファ碁が名人に勝ったのももしかしたらアメリカのものすごいパフォーマンスだったのかもしれない。

 「国家」という得体のしれない巨大な力はわたしたちを知らないうちに縛り続ける。その中で精神が自由になるためには何が必要なのか。とても大きなテーマを考えさせられた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする