まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

全人類必読書 『友だち幻想』!

2014-02-25 19:34:09 | グローバル・エシックス


ちょっとものすごい本に出会ってしまいました。
菅野仁 『友だち幻想 人と人の 〈つながり〉 を考える(ちくまプリマー新書、2008年) です。
この本を読みながらずーっと思っていたことは 「お前はオレかっ?」 でした。
著者の菅野仁さんってまったく存じあげない方で、
今回初めてたまたま Book Off で新書のタイトルに惹かれて買って読んでみただけなのですが、
どのページも私がふだん学生たちに伝えようとしていること、いつか自分で書きたかったことばかりで、
しかもそれがとてもわかりやすい (たぶん中学生でもわかる) 日本語で書かれていて、
私のこのブログが目指しているところをはるかに高い水準で凌駕しているような本なのです。
この方は社会学を専攻した社会学者のようですが、倫理学者だと言われてもまったく驚きません。
本の内容は社会学というよりはよっぽど倫理学のほうに近いと言っていいでしょう。
この本の副題 「人と人の 〈つながり〉 を考える」 ってまさに倫理学のことじゃないですか。
はっきり言ってもう 「悔しい!」 の一言です。
なぜこの本の著者が私ではないんでしょう。
こんな本を書きたかったのです、私はっ!

「はじめに」 には本書の狙いが次のように書かれていました。

「身近な人との親しいつながりが大事だと思っていて、
 そのことに神経がすり減るぐらい気を遣っている。
 なのにうまくいかないのは、なぜなのでしょうか。
 友だちが大切、でも友だちとの関係を重苦しく感じてしまう。
 そうした矛盾した意識をつい持ってしまうことはありませんか。
 こうした問題を解きほぐして考え直すためには、
 じつは、これまで当たり前だと思っていた 『人と人とのつながり』 の常識を、
 根本から見直してみる必要があるのではないかと私は思うのです。
 タイトルに 『友だち幻想』 とつけたのもそのためです。
 知らず知らずのうちに、私たちはさまざまな人間関係の幻想にとらわれているのではないか。
 固定した思い込みにとらわれているために、ちょっと見当はずれな方向に気をつかいすぎて、
 それで傷ついたり途方に暮れたりしているのではないでしょうか。
 だから、今まで無条件にプラスの方向、無条件に良いものと考えられてきた
 『身近な人とのつながり』 や 『親しさ』 のあり方について、
 ここであらためて腑分けをして、きちんと考えてみようと思うのです。
 この本は、身近な人たちとのつながりを見つめなおし、
 現代社会に求められる 『親しさ』 とはどのようなものであるかを捉えなおすための、
 『見取り図』 を描こうとしたものです。」

これまで当たり前だと思っていた常識を根本から考え直してみる、
というのは私が常日頃から哲学や倫理学の特徴として挙げていることです。
そして、この本はただ常識を疑って終わりではなく、
そこから新しく物事を捉えなおすためのとてもすっきりした 「見取り図」 を与えてくれます。
たぶんどのページにも新しい発見があるでしょう。
すべてのページに警句名言が満ちあふれています。

そのすべてをご紹介することはできませんが、
まず最初のほうで 「幸福」 とは何か、幸福にとって本質的な核の部分は何かという話が出てきます。
ね、もう 「まさおさまの幸福の倫理学」 みたいでしょ。
菅野氏によれば幸福の本質的な要素としては2つあって、
1つめが 「自己充実」、2つめが 「他者との交流」 だそうです。
2番目の 「他者との交流」 はさらに2つに分かれていて、
ひとつが 「交流そのものの歓び」、もうひとつが 「他者からの承認」 だそうです。
「自己充実」 は 「自己実現」 と言い換えることもできて、
「自分が能力を最大限発揮する場を得て、やりたいことができること」 です。
「交流そのものの歓び」 というのは、友だちとおしゃべりしたり恋人と一緒にいたり、
時間と空間を共有しているというつながりそのものが楽しい状態です。
「他者からの承認」 は何かを人から認めてもらえる歓びです。
なるほど、どれもたしかに幸福の基本的・本質的要素といえるかもしれません。

そしてここで出てきた 「他者」 という言葉がこの本の重要なキーワードになります。
「他者」 というのは自分以外のすべての人を指す言葉です。
著者によれば、どんなに身近な人、どんなに親しい人でも 「他者」 であって、
自分が知らない、自分とは違う性質 (=「異質性」) を持っているはずです。
どんなに気が合い心を許せる人間でも、やはり自分とは違う価値観や感じ方を持っている、
「異質性を持った他者」 なのであると捉えてみることを著者は薦めています。
私たちは親子だったり親友だったりすると、私は相手の気持ちを全部わかってあげている、
相手も自分の気持ちをすべてわかってくれるはずだ、というふうに思いがちですが、
異質性を前提に考え、相手を他者として意識することによって、
そこから本当の関係や親しさを築き上げていくことが大事だと著者は言います。
これは来年度に開講する 「倫理学概説」 のなかで私が一番伝えたいテーマです。
うーん、先を超されてしまったなあ。

ほかにも 「フィーリング共有関係」 と 「ルール関係」 の区別なども論じられています。
お互いに気持ちは一緒だよねということを前提するつきあいが 「フィーリング共有関係」、
他者と共存するためにお互いに最低限守らなければならないルールを基本に成立するのが、
「ルール関係」 です。
フィーリング共有関係を築き上げることができればそれはたしかに素晴らしいのですが、
例えば、クラスの全員とそんな関係を全部結ぶなんていうことは不可能です。
では、フィーリング共有関係になれなかったらそれはただちに敵となるのか。
そんなことはないはずです。
フィーリングを共有できない人たちとも適切な距離を保ち、
ルールを守ってお互いを傷つけ合わないようにしながら共存していけばいいのです。
これこそまさに 「倫理」 の原型です。
みんなが友だち、みんなが仲良しにならなくてもいいので、
最低限のルールを守って共存していく。
そのなかで本当に心を許しあえた人とだけフィーリング共有関係を築ければいいのです。
それができるのはたまたまの偶然でラッキーなことです。
学校に入学したらすぐに誰かとフィーリング共有関係を築かなきゃいけないわけではありません。
友だち100人なんてできっこないし、できなくていい、というのはとても大事なメッセージだと思います。

この本では友だち関係のことばかりでなく、親子関係のこととか、
教師と生徒の関係や恋愛関係についても語られています。
さらに最終章は 「言葉によって自分を作り変える」 というタイトルで、
「ムカツク」 とか 「うざい」 などのコミュニケーション阻害語を使わないようにすることで、
コミュニケーション能力を上げ、他者とのつきあい方を向上させていく方法が論じられていました。
友だちづきあいで苦しんでいる人、子どもの教育や親とのつきあいで困っている人、
将来教師になりたい人、恋人との関係に悩んでいる人、
そして、他者を全部排除しないと幸せになれないと勘違いしている政治家の人、
要するにすべての人類にとって必読の書だと思います。
一家に一冊常備して、家族全員で回し読みしていただきたいものです。
まさおさまがこんなに全力でオススメした本って今までなかったんじゃないかな。
ぜひみんな騙されたと思って読んでみてください。
ああ、それにしてもなぜこれを書いたのがぼくじゃないんだろう


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1 コメント

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Unknown (アール)
2018-08-28 10:36:07
職場の同僚は50代の女性が多いですが、「友達としょっちゅう集まっている」という話題が多いです。自分の子供の結婚、離婚、早く孫が欲しいなどの話題で盛り上がるようです。そういう友達がいない私っておかしいのかな、中年期、老年期にさしかかっても、中高生みたいな人付き合いをしなくてはならないのか、と疑問に感じ検索していたところ、こちらのブログにたどりつきました。ぜひ読んでみます。
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