おはようございます。
藤田嗣治のエッセイ集、腕一本/巴里の横顔を読んでいたら、モンパルナスの女王と呼ばれたモデル、キキのことが数か所で現れ、面白かった。メモとしてここに残しておこうと思う。
2012年にぼくは”モンパルナスの女王キキ”というタイトルでブログ記事を書いた。読書感想文だが、これが、結構、いつまでもアクセスが多く、しばしば、”このブログの人気記事”欄に登場する。キキは自身でも自伝を書いており、英訳もされている。ぼくが読んだ本は、ルー・モルガール著の”キキ/モンパルナスの恋人”(北代美知子訳)である。↓
キキは、1901年にブルゴーニュの私生児として生まれ、12歳でパリに出る。画家のモデルなどをして暮らしていたが、彼女を有名にしたのが、藤田嗣治だった。ふたりの出会いが面白いので紹介する。以下青色文字は2012年のブログ記事。
その日本人の画家はドランブル街5番地で昔の厩舎を改造したガレージをアトリエに使っていた。ワタシ、ツグハル、フジタ、帝国陸軍ノ将軍ノムスコ、と自己紹介した。でもみんなはフー・フー(お調子もの、浮かれもの)と呼ぶ。前髪はおでこに下がり、耳には金の輪をつけ、平たい鼻に丸い眼鏡をのせている。
その日はキキはいたずらっぽく振る舞い、モデルでありながら自分がフジタの肖像を描いてしまう。それをカフェ”ル・ドーム”で金持ちのアメリカ人に売ってしまう。翌日、フジタは復讐のため、こんどはキキをおとなしくさせ、寝室のキキを描いた。極細の筆で黒地のクレトン更紗の上に、陰影をつけずに描いた。この裸婦像が出展したサロン・ドートンヌで大評判となり、その日のうちに8千フランで売れた。それ以来、ふたりはモンパルナスの有名人となったのだ。フジタ、36歳のときである。
さて、藤田嗣治のエッセイ集、腕一本/巴里の横顔(↓)では、キキはどう書かれているか。
キキは15,6歳のころ、パリで菫の花を売り歩いていたが、そのうち、画家のモデルになった。藤田のところに初めて来たのは17歳の頃で、足を洗わせなければならないほど、不潔な足をしていた。でも、うつくしい顔、身体、性格も明るく、藤田のお気に入りになる。貧乏モデルだったので、ある日、突然、キキが藤田をモデルにして描き、それを向かいのカフェのアメリカ人に売ってお金をせしめた。
藤田は1913年にパリに渡り、8年間、鳴かず飛ばずだったが、1920年にキキをモデルに初めて裸体画を描いた。ベットに横たわる大作で、これがサロンで呼物となり、”藤田のオリンピア”と称され、絵の前は身動きならぬ人の山。そして、当日、コレクターのゲイラン夫人に8千フランという大金で購入された。こんな大金は初めてのことで、これはキキのおかげだと、お礼を考えていた。当時、キキは胸のところにハンカチをあてて、外套の間から覗かせて、着物にみせかけていた。外套とハンカチ1枚が全財産だった。その日、2フランを借りに来たキキに300フラン渡すと、あまりの大金に驚き、へなへなと床にくずれ落ちてしまった。しばらくして、立ち上がると、洋服屋さんへ飛び込み、下着から上着、靴下、靴、すべて新調し、見違えるような姿で帰ってきた。
翌年もキキの裸体画を出品し、これも高額で売れた。また、キキにも多分な礼をした。”私の喜びはキキの喜びであった。私の成功はキキの成功であると思った。女は私を同情深い人だと思ってくれた”と書いている。その後、キキは米人写真家マン・レーと同棲することになり、モンパルナスの女王としてもてはやされていく。
ほかのタイトルの中でこんなことも書かれていた。キキが16歳のころ、病気をして治療代もなかったので、その頃、絵で稼ぎがない藤田が、自分がモデルとなってモデル料を稼ぎ、治療費に回していたこともあったようだ。あとになって、このことをキキが知り、フジタありがとう、キキはあなたの親切はいつまでもわすれないわ、と言って床に泣き崩れた。藤田のやさしさがよく現れているところだ。その1年後に前述の成功が待っていたのだ。
藤田もキキも有名にした名画”寝室の裸婦キキ”(1922)。パリ近代美術館所蔵。
しかし、晩年はさびしい生活を送ることになり、52歳で亡くなる。病院を出発した葬列は、墓地への道を通らず、モンパルナスへ向かい、キキが愛した場所、それぞれの前でちょっとづつ立ち止まった。それぞれがキキの人生のひとつのエピソードだった。ル・ドーム、ラ・クーポール、ル・セレクト・・・モンパルナス中の人々が葬列を送った。葬儀を終え、帰り道、仲間がラ・クーポールに集まった。フジタがつぶやいた。”もう二度と再びモンパルナスに戻ってくることはないだろう”(モンパルナスの女王、キキより)。この葬儀は、藤田のエッセイにも、出てくるが、エコールドパリで活躍した画家で葬儀に参列したのは、フジタともう一人だけだったという。藤田、67歳のとき。
それでは、みなさん、今日も一日、お元気で!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます