ダーリン三浦の愛の花園

音楽や映画など徒然なるままに書いてゆきます。

明日のためにその355-ぼけますから、よろしくお願いします。

2019年07月10日 | 邦画
夫唱婦随。

人間はなぜ老いるのだろう。
「老いていいことなど一つもない」とは「パルプフィクション」のヴィング・ライムス扮するギャングのボスの言葉。
実際にそう思うこともある。気力は失せかけて、体力も落ちる。感性も徐々に鈍るだろう。
しかし生き物は、生れ出たころから年を取り始める。死にむかって歩き始めるのだ。
今回紹介する映画は「ぼけますから、どうぞよろしく」
高齢の夫婦の介護の模様を追ったドキュメンタリーだ。
監督はのこの夫婦の一人娘である。
ストーリーを紹介しておこう、

映画撮影当時、父親は98歳、母親は89歳。
母親は数年前に、アルツハイマー型認知症を患っていた。
娘は独身で、母親の介護のために地元に戻ってくると言ったのだが「自分の元気なうちは、自分が面倒を見る」と言う父親の言葉におされ、思い切って高齢ではあるが、父親に母親の介護をたのむことにした。
しかし、それが心配な娘は、たびたび実家に帰り母の様子をうかがう。
父親は腰も曲がり、まともに歩くことも難しい。そして耳が遠い。
できるだけ助力せず、その様子をカメラに収めていく娘だったが........

カメラは冷静に両親の様子を捉えていく。さすがに危ないときは、カメラを止めて娘が家事などを手伝う。
「男子厨房に入らず」がモットーだった父だが、彼が家事全般をこなすようになる。時には裁縫まで行う生活の変わり方。
この映画を観ていると「なぜ人は年を取るのか」と言うことが、一種不思議に思えてくる。
母は若い時、今で言うキャリアウーマンであり、カメラが好きだったらしい。
病気になる前は書道を始め、或る大会で優秀な成績をあげたと言う。
今、自分のカメラの前にその母はいない。つい先ほどの行動等の記憶を無くした「痴呆老人」がいるだけだ。
監督と言えども、かなり辛い撮影だったろうと、心中慮らん。
両親ともに良い人生を歩んできたとおぼしいが、何か業を背負っているのだろうか。
カメラはラスト、60歳頃だろうか、両親が並んで歩いてくる姿を映す、そして数秒後、現在の両親の歩いてくる姿を映す。
夫唱婦随。その姿には夫婦だけにしか分からない絆が見えてくる。
利己的な人間同士が結婚し、夫婦生活が破綻して離婚に至るのが当たり前のような現代、若い人たちに是非観ていただきたい映画だと切に願う。

2018年、日本製作、カラー、102分、監督、撮影、語り:信友直子