石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

「OPECは何処へ向かう」(連載第6回)

2008-02-08 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(注)HP「中東と石油」の「OPECの部」で全文をご覧いただけます。

その6.生産量据置を決めた第147回OPEC総会

 2月1日ウィーンで第147回OPEC総会が開かれ、加盟国の現行生産量を据え置くことが決定された。OPECは昨年9月の総会で50万B/D増産を決めたが、石油価格はその後も上昇の一途をたどり、IEA(国際エネルギー機関)や米国は更なる増産を求めていた。その間、今年1月3日には遂にWTI原油価格は100ドルを突破し、市場最高値を記録している。それにもかかわらずOPECは11月総会および今回の総会と二度にわたり増産を見送ったのである。但しこの100ドルという数値はインフレ係数を加味すれば第二次オイル・ショック後の1980年の最高値を未だ超えていない。

 昨年9月のOPECの生産枠は割当対象外のイラクを除く10カ国で2,630万B/Dであった。OPECは総会で増産あるいは減産の全体枠を決めるが、実は各国別割当量については2000年7月に決定した数値に比例したものとしている。つまり2000年7月以降は加盟各国の生産余力、輸出余力とは無関係に割当比率は一定だったのであり、例えばサウジアラビアの割当比率はOPEC全体の33%であり、インドネシアのそれは5%であった。しかしここ数年石油価格の上昇に伴いOPEC加盟国の中には割当枠以上の生産を行う国が続出、消費国からの増産圧力も後押ししてOPEC自身が加盟国の増産を野放しにするようになった。さらにインドネシアのように割当枠の生産すら達成できない国も出たため、これまでの比例割当方式は無意味なものとなっていた。

 このため2007年12月の総会では、現行の生産量を据え置く、との表現で各国の最新の生産レベルをそのまま認める形とした。直前の9月総会では50万B/D増産を決定し、総枠は2,630万B/Dと認識されたが、各国毎の割当量は明示されなかった。そして12月総会は10カ国の最新の生産量を積み上げた2,725.3万B/Dを新たなベースとし、さらに新規加盟のアンゴラ及びエクアドルの割当量をそれぞれ190万B/D、52万B/Dとした。この結果イラクを除くOPEC加盟12カ国の生産枠は2,967.3万B/Dとなっている。

  OPECのコミュニケは「現行生産量を据え置く」と述べるにとどまり、このような具体的な数値はOPECが明らかにしたものではないが、メディアなどが言及している生産量の国別内訳は以下のようになる(カッコ内は万B/D)。

 アルジェリア(135.7)、アンゴラ(190)、エクアドル(52)、インドネシア(86.5)、イラン(381.7)、クウェイト(253.1)、リビア(171.2)、ナイジェリア(216.3)、カタル(82.8)、サウジアラビア(894.3)、UAE(256.7)、ベネズエラ(247)。合計2,967.3万B/D。

 OPECがホームページ上で生産枠及びその国別割当量を最後に公表した2005年12月の数値(総枠2,800万B/D)と上記2007年12月の数値(総枠2,725.3万B/D)を国別に比較すると、アルジェリア(89.4→135.7)、クウェイト(224.7→253.1)、リビア(1,500→171.2)のように生産が大きく膨らんだ国がある一方、インドネシア(145.1→86.5)、イラン(411→381.7)、ナイジェリア(230.6→216.3)、ベネズエラ(322.3→247)のように生産が大幅に落ち込んだ国もある。生産が大幅に落ち込んだ国の理由は、インドネシアが探鉱開発事業の遅れという技術的なものであり、ナイジェリアは国内治安の悪化が原因といえよう。またイラン及びベネズエラは米国との関係悪化により輸出が停滞し、あるいは欧米先進国の油田メンテナンス技術を導入できないため生産能力が低下したためと考えられる。それに対してリビアの生産が拡大したのは、イラン、ベネズエラとは逆に欧米との関係が改善されたことがその理由であろう。

  このようにみるとOPEC各国の生産水準の変動は、国際関係特に米国との関係次第とも言えることがわかる。90年代以前の生産量をベースにその都度、増産又は減産を各国に比例按分するこれまでの生産割当方式が実情に沿わないことは明らかである。それでもOPECが結束し、なおかつアンゴラ、エクアドルのような新規加盟国が増えるのは、現在の世界の石油需給関係が慢性的な供給逼迫、あるいは投機的な需要過剰の状況にあるためであることは間違いない。つまり供給側として結束のポーズを示すことの利益が大きいということであろう。それはOPECの構成員が非西欧国家群であり、かたや有力消費国が西欧国家群である、という政治的な事実関係とも関連しているのであろう。即ちOPEC強硬派といわれるイランやベネズエラのような反米国家にとっては、OPECの威光を笠に石油という武器を使って米国を牽制するほうが、単独で米国を敵に回すよりはるかに効果的だからである。但し、OPEC穏健派のサウジアラビアなど湾岸産油国は、石油を武器に使うことには反対であり、イランやベネズエラを牽制しており、OPEC内部も一枚岩ではない。

 OPEC創成期には加盟各国は結束して当時の欧米石油大企業(メジャー)に挑戦して石油の富を産油国に取り戻した。そしてその後は二度のオイル・ショックを通じてOPECは石油の価格支配権を握った。そして現代は石油(及び天然ガス)について生産国対消費国、即ち国と国が対峙する様相を呈している。そこでは石油(あるいは天然ガス)が好むと好まざるとにかかわらず外交の武器になることは避けられないようである。石油という武器を持ったOPECが、それをいつまでも鎧の下に隠したままでいるかどうか。武器を持てばそれを使いたくなるのが人情であろう。かと言って本物の武器を持ち、しかもそれを行使することを厭わない米国に対してOPECが正面から向きあうことも難しいであろう。石油輸出国カルテルとしてOPECが今後どのように結束を維持できるのかは甚だ不透明である。

 (第6回完)

(これまでの内容)

その5.OPECの市場シェア

その4.OPECの原油生産量と世界に占めるシェア

その3.生産枠の変遷

その2.過去最多の13カ国になったOPEC加盟国数

その1.どこまで上がる原油価格 

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601 Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642 E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

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