(その1)アザデガン油田の開発問題
イランのアザデガン油田の開発及びイランとインドを結ぶ天然ガスパイプラインの二つのプロジェクトに対して、米国がイランの核疑惑問題を理由に反対の意向を表明しており、その動向が注目されている。
アザデガン油田の開発は、2000年11月のハタミ大統領(当時)の来日時に開始され、日本側が30億ドルの原油代金前払いを提示して優先交渉権を獲得した。
しかしイランを「悪の枢軸」の一国とする米国が日本政府に慎重な対応を求めたため交渉は難航し、2004年2月に漸く交渉当事者である日本の国際石油開発(INPEX)とイラン国営石油会社(NIOC)の間でアザデガン油田の評価・開発に関する契約が調印された。(因みに30億ドル前払いについては2001年にイラン産石油の輸入商社数社による受け皿会社「シルクロード石油輸入」が設立され30億ドル分の前払いがなされ会社は業務を完了している)
契約調印時のINPEX記者発表によれば、アザデガン油田はINPEX75%、NICO(NIOCの子会社)25%の参加権益で二段階に分けて開発される。調印後3年4ヶ月で5万B/Dの生産を開始し、契約8年後に26万B/Dとする予定であり、プロジェクト総額は20億ドルである。アザデガン油田の推定埋蔵量は260億バーレルとされており石油開発としては超大型案件と言えよう。
そのためINPEXは石油開発の経験が豊かなシェルの参加を求めたが、シェルは採算が困難であることを理由にINPEXの要請を断った。しかしこれほどの大型案件をシェルが断ったのは単なる採算性の問題ではなかろう。シェルは昨年自社の保有石油埋蔵量を大幅に下方修正する事件を起こしており自社原油の増加につながるアザデガン油田への参加を見送るのは如何にも不自然である。米国から何らかの圧力があったと見て差し支えないであろう。
契約調印以後も米国はイランの核開発疑惑問題を引き合いに出し日本側を強く牽制してきた。しかしイラン側からは日本がこれ以上着工を引き伸ばすなら契約相手を他国に変更するとのクレームがつき、窮地に陥ったINPEXは来年着工を決断したようである。なおINPEXの最大の株主は国(経済産業省)であり、同社の決断は当然経済産業省の判断であると見て間違いない。一方対米協調を基本方針とする外務省は慎重論を崩していないと見られ当分は日本政府内で両省の綱引きが続くであろう。(或いは外務省も暗黙には了解しているが、表面的には慎重論を唱え続けるのかもしれない)
なおINPEXはシェルに替わり仏のトタール社をプロジェクトに引き入れるとの報道がある。イラク派兵で米国に反対して以来、中東での足がかりを失っている仏としては願っても無い話であろう。INPEX(経済産業省)がトタールに誘いを掛けたのは、米仏関係が改善しているとの読みがあるからであろう。 INPEXは11月始めに帝国石油との経営統合を発表し、日本最大の石油開発会社としてINPEXのアゼルバイジャンでの石油生産開始(本年2月)、INPEX、帝石両社のリビアでの鉱区取得など海外への進出に拍車がかかっている。日本のエネルギー安定確保のために両社の果たす役割は大きく、統合新会社の筆頭株主となる政府(経済産業省)の強い意志が感じられる。(本ブログ「国際石油・帝石合併と新日本石油―帝石に嫌われ、経済産業省に油揚げをさらわれた新日石?」参照)
しかし石油・天然ガスのエネルギー開発は経済的なリスクよりもむしろ国際的な政治リスクに翻弄される度合いが大きい。そのリスクに対して日本政府がどこまで腹をくくって対処するかが最大の焦点であろう。
以下、その2 「インドとイランの天然ガスパイプライン建設プロジェクト」に続く。
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