石油と中東

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和平合意で急速に深まるイスラエルとUAEの関係(4完)

2020-11-03 | 中東諸国の動向
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0517UaeIsraelPeaceAccord.pdf

4.医療・教育・メディア分野の共同事業
 和平合意発表以前の6月には医療面の共同事業として喫緊の課題であるコロナウィルス対策の共同研究が立ち上がっている 。また教育分野ではUAEのMohamed Bin Zaiyed大学とイスラエルのWeizmann InstituteがAI (人工知能)の活用に関する覚書を取り交わした 。さらに娯楽メディア産業ではアブダビ映像委員会(ADFC)とイスラエル・フィルム・ファンド(IFF)が共同でテレビ番組の制作協力に合意し、ワークショップの開催、教育訓練など4分野で共同事業を展開することを目指している 。

 このようにUAEとイスラエルは政治・経済・教育・医療などの幅広い分野で急速に提携を深めつつある。そして直近では和平合意に関連して軍事分野で米国・UAE間に大きな進展が見られた。米国によるステルス戦闘機F-35のUAE向け輸出解禁である。

 そもそもUAEが今回イスラエルとの和平に踏み切ったのは米国トランプ政権の強い働きかけがあったためであるが、交渉の過程でUAEはイスラエルとの和平と引き換えに、F-35の購入を強く望んだという経緯がある。敵に発見されにくいステルス性能を持ったF-35は時代の先端を行く花形兵器であり、現在この戦闘機を所有しているのは、米国の他は日本、イスラエルなど5カ国だけである。中東において常に軍事的優位を保つことを最重要課題とするイスラエルは地域の軍事バランスを乱すとしてUAE向けF-35売却に難色を示した。一方、UAEはペルシャ湾をはさんで対峙するイランに対する自衛手段としてF-35が何としても欲しいのである。結局、舞台裏の交渉を経てトランプ大統領はUAEに売却することを決断し、先月末に議会に通知したところである 。

追記:UAEに先を越されて焦るムハンマド・サウジアラビア皇太子
 今回のUAE・イスラエル和平合意によりサウジアラビア、特に実質的な支配者とされるムハンマド皇太子(MbS)は相当の焦りを覚えているに違いない。イスラエルとの和平についてはバハレーンがUAEに追随する一方、クウェイトはパレスチナ支持の姿勢を変えてない。オマーンはネタニヤフ首相が前カブース国王時代に訪問しており、イスラエルとの関係は悪くない。イスラエルをめぐりGCCは四分五裂の状態である。

 MbSは外交・経済・軍事すべての分野で他のGCC諸国を無条件に服従させることができると過信している。さらにこれまでのクシュナー大統領顧問と彼の親密な関係を誇示して対イスラエル外交でGCCを先導する意図があったはずである。しかしサルマン国王はアブダッラー前国王の時代に同国が打ち出したパレスチナ独立を前提とする2カ国共存の平和イニシアティブに固執している 。最近の動きを見る限り、MbSは国王に頭を押さえつけられていると考えて間違いない。ビジョン2030の停滞も加え内政・外交で思うに任せないMbSの焦りの色は濃い。

以上

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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com
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