石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

地に堕ちたサウジ外交Part2:失速した陰の主役ムハンマド皇太子(2/2)

2021-01-29 | 中東諸国の動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0524SaudiDiplomacy2G20Opec.pdf

 

 

2.OPEC+閣僚会合:サウジとロシアの齟齬はMbSとプーチン大統領間のホットライン途絶に一因


 2020年初めの北海Brent原油価格は64ドル/バレルで産油国が満足すべき状態であった。しかしコロナウィルス(COVID-19)問題が世界経済を直撃し石油需要の見通しは不透明であった。非OPEC最大の産油国ロシアは協調減産の緩和を求め増産に走った。これに対してOPECの盟主サウジアラビアは需要減退を懸念して減産の強化を主張したが両者は折り合わず、結局サウジも増産に走り、市場はチキンレースの様相を呈した。

 この結果、4月のBrent原油価格は18ドル/バレルに急落した。WTI原油の翌月物は引き取り手がなく売り手が損を覚悟で決済を余儀なくされ、価格は一時マイナスになると言う異常事態が発生した。4月12日、COVID-19のためTV会議方式で開催されたOPEC・非OPEC臨時閣僚会合(ONOMM)で両者は協調減産を継続することで合意した。減産量は5-6月970万B/D、7-12月770万B/D、2021年1月-22年4月まで550万B/Dとされた。これにより年末のBrent価格は50ドルまで回復した 。

 それでもサウジアラビア以外の大半のOPEC及び非OPEC産油国は歳入不足に苦しみ、2021年以降の減産緩和を求めた。その急先鋒がロシアであり、同国は再びサウジアラビアと対立したのである。12月、1月と続けて開かれたTV会議方式によるOPEC+閣僚会合(ONOMM)では、減産幅を12月以降770万B/Dから720万B/Dに緩和し、各国ごとの生産レベルを示し、ONOMM会合を毎月開催し減産幅を協議することとした 。

 TV会議方式の導入がOPEC+の意思決定に大きな変化をもたらしたことは間違いない。ONOMMが毎月開催されることによりOPEC+の意思疎通が密接になるメリットは大きい。その反面、会議場外での事前根回し、あるいはフィクサー(黒幕の重要人物)による調停など会議の成否を左右する要素が働きにくくなった。ONOMMの共同議長を務めるサウジアラビアのアブドルアジズ石油相とロシアのノバク副首相兼石油相は従来会議前日にウィーンに入り、二者会談を行って議案の調整を行い、サウジはOPEC諸国を、ロシアは非OPEC諸国を説得して本会議をスムーズに運営してきた。さらに増産・減産の方針決定など国家のトップによる決着が必要な問題については、サウジアラビアのムハンマド皇太子(MbS)がフィクサーとなってロシアのプーチン大統領とのホットラインで決定してきた経緯がある。MbSは皇太子即位以降、折に触れてプーチンと直接あるいは電話会談を重ね信頼関係を築きあげている。

このような個人の信頼関係で物事を進めるのは強権国家の支配者に特有のことである。MbSの相手のプーチン大統領や米国のトランプ前大統領も同様であったと言えよう。しかしこれは裏を返せば信頼関係が揺らげばホットラインが機能しなくなることを意味している。最近のメディアの報道を見る限り、MbSとプーチン大統領がホットラインでつながっているようには見えない。プーチン大統領がMbSを遠ざけていると思われる。その理由はカショギ暗殺事件によりMbSの国際的な評価が落ちていることに加え、ロシアにとって中東外交あるいは資源外交におけるサウジアラビアの利用価値が無くなったためと言えそうである。

OPECの政策決定でMbSの出番は無くなったようである。OPEC+問題に限らず、G20あるいはGCCサミットにおいても昨今のMbSの存在感は薄い 。これまで独断専行が目立つMbSであったが、最近ではサルマン国王との間にすきま風が吹いているのではないかと疑われるほどである。

Part 2 完


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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com


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