廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

R.I.P Gary Peacock

2020年09月12日 | Free Jazz

Albert Ayler / Spiritual Unity  ( 日本 ビクター MJ-7101 )


私がゲイリー・ピーコックの演奏を初めて聴いたのは、20代半ば頃に買ったこのレコードでだった。その時点ではまだキースのスタンダーズは
聴いていなかったし、オーネットも知らなかったので、リズム・キープをしないベースを聴いたこと自体初めてだった。ただ、レコードを買った
目的はガイド本に載っていたアルバート・アイラーという人を聴くことであって、彼のベースは結果的に知ることになったということだった。

マレイのシンバル・ワークに向かって、サックスとベースが同等の関係で歌いかけるような位置関係にあるのがとにかく不思議だった。ベースは
ドラムとペアで音楽の土台になるものだと思い込んでいたから、こういう演奏はその時はうまく馴染めなかった。フリー・ジャズというのは
こういう演奏をするものなのか、という程度の理解で終わって、その時はゲイリー・ピーコックという名前は頭にはインプットされなかった。

それからしばらく時間が経ってスタンダーズを聴き、そこでのベースの木材の質感に触れた時に、ああ、そう言えば・・・とこのレコードの演奏を
思い出して、ようやくゲイリー・ピーコックという人が自分の中で顔と名前と演奏が一致する存在となった。

外見から受ける印象と彼のキャリアの内容から、学究的な人なんだなという印象がずっとあった。それから更に時間を置いて、ECMの音楽に
触れるようになって、彼の考える音楽を知るにつれて、その寡黙で知的な雰囲気にジャズという騒々しい音楽の世界にもこういうタイプの人が
いるんだ、とどこか安心したような気がしたものだ。

ベース弾きとして終始アコースティック・ベースにこだわり、魅力的な音色を聴かせてくれた。アイラーのこのアルバムでは既に彼の演奏
スタイルは完成していて、アイラーとまったく互角の演奏をしているのが圧巻なのだ。アイラーも彼のソロを聴かせるためにちゃんと
スペースを用意しているくらいだから、その力量を認めていたのだろう。まるでもう1人のリード奏者のように屹立していて、
このアルバムが傑作になったのは間違いなく彼の存在も一役買っているということが今はよくわかる。この人がいなければ、キースの
スタンダーズもなかっただろう。

自宅での安らかな最後だったそうなので、心からよかったと思う。 R.I.P ゲイリー・ピーコック。素晴らしい音楽を本当にありがとう。


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