廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ドミチルの熱い夜

2016年06月12日 | Jazz LP (Europe)

Dusko Goykovich / As Simple As It Is  ( 独 MPS/BASF CRF851 )


私がダスコのことを初めて知ったのは1980年代の終わり頃だった。 ウィスキーか煙草かオーディオか、もうよく憶えていないが何かの広告だった。
そこにはEnja盤 "After Hours" の裏ジャケットの "Remenber Those Days" の手書きの五線譜の写真と "あのドミチルの熱い夜・・・" というようなコピーが
載っていて、それがとても印象的だった。 そこで新宿のDUの地下に行くと、壁に備え付けられたレコードラックの中にはちゃんと "Dusko Goykovich" の
仕切り板があって、そこには何枚かの新品の輸入盤が並んでいた。 "ドミチル"、"Remember Those Days" という2つのキーワードでレコードを探してみた
けれどそれらしきものは見つからず、仕方なくその時は "スインギン・マケドニア" のEnja盤の新品を買って帰った。 そういう時代だった。

私が廃盤蒐集をやめていた18年ほどの間に起こった欧州盤バブルの時期にはダスコの作品のすべてが陽の当たるところに引きずり出されて軒並み価格が
高騰したんだそうだが、私はその狂騒の様を全く知らないので、今でもこの人に対するイメージは大学生だったある冬の寒い日に新宿で出会ったダスコの
イメージのままだ。 凍えて白い息を吐きながら新品のきれいなレコードを抱えて帰った、懐かしく親密な記憶がゆっくりと蘇る。

東側から西側を眺める視線で演奏される彼の音楽は私のそういう懐かしい記憶群と相性がよく、折に触れてよく聴くのだが、それらの中で最も好きな作品が
このドミチルでのライヴだ。 これは彼の作品の中では最もアメリカのハードバップに近寄った音楽になっており、特にオランダの隠れた名手である
フェルディナンド・ポヴェルのテナーが最高の出来でそれに応える素晴らしい演奏になっている。 リズム隊のサポートも見事で、5人がまるで常設のバンド
であるかのような纏まりと適度なスピード感で疾走する様に聴き惚れてしまう。 隅々まで行き渡る繊細さと程良いマイナー感が堪らない。

あのドミチルの熱い夜、という広告コピーでまだ知らない大人の世界があることを知り、まるでそれに手繰り寄せられるのようにこのレコードに出会ったのが
90年代の半ば頃でその時にも聴いて感激したけれど、今聴いても同じ感動を覚える私には稀有なレコード。 ダスコの作品ではなぜか唯一これだけがCD化
されていない。 絶対に再発するべきだと思う。



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