廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

買い取りの分岐点

2016年11月13日 | Jazz LP (Europe)

Bjarne Rostvold Quartet & Trio / Jazz Journey  ( デンマーク HIT H-r 701 )


今や市場価格は50万円だそうだ。 それだけ弾が無いということなんだろうけど、デンマークという国は元々音楽が文化としても産業としても他の欧州
諸国と比べると地味で、地場の音楽であるクラシックの世界でも輩出した作曲家といえばニールセンやホルンボーくらいだし、レコードもほとんど生産
されていない。 そんな中でジャズのレコードが作られていたことは異例なことで、弾数が少ないのは仕方がない。

アメリカのジャズへの憧憬もここまで徹していると、逆にすがすがしい。 憧れ度合が純度100%でひねくれたところがないので、驚くほど爽やかな雰囲気だ。
きっと、そういうところが受けるのだろう。 自分のジャズへの憧れをぴったりと綺麗に重ね合わせることができるという感覚が心地よいのだ。

一番耳につくのはB面のピアノトリオ群。 ベント・アクセンのビル・エヴァンスへの傾倒振りは徹底していて、"You Don't Know What Love Is" では
ブロック・コードの弾き方やコード進行をエヴァンスの手癖で完全に固めている。 世にエヴァンス派と言われるピアニストは星の数ほどいるけれど、
ここまで完コピの精度が高い人はあまりいないだろう。 ビャルネ・ロストヴォルドのブラシワークはシェリー・マンのそれだし、ウォーキングベースは
レイ・ブラウンそのもの。 つまり、リヴァーサイド時代のエヴァンスがレイ・ブラウンとブラシを持ったシェリー・マンをバックに演奏したような感じだ。

A面はトランペットが入ったワンホーンだが、テンポ設定やアレンジの方向がヴァーヴ系に見られる中庸的な路線で、いくら "Mr. PC" が取り上げられて
いるとはいえ、モダンの雰囲気は希薄だ。 ノーグランやクレフのレコードを聴いて勉強したんだろうというのが手に取るようにわかる。 

そういう本場のジャズへの強い志向性が高い演奏力と欧州の高級な録音技術で録られているので、音楽的なオリジナリティーは何もなくても、アメリカの
レコードにはない品質の高さが担保されている。 でも、だからと言ってそんな非常識な価格にしてしまうと今度は買い直しが効かなくなるという意識が
働いて、かえってレコードが流通しなくなるんじゃないだろうか。 買い取り価格を吊り上げればレコードが集まるという法則の中にも分岐点は存在する
ように思う。


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