廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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ヴェローナの怪人

2016年05月07日 | Jazz LP (Europe)

Bruno Marini / Love Me Or Leave Me  ( 伊 プライベート LMJ 3338 )


ブルーノ・マリーニは1958年生まれのイタリアはヴェローナのバリトンサックス、オルガン奏者である。 以上、終了。

これ以上書くことがない、それくらいよくわからない演奏家。 欧州盤ブームを仕掛けたマニア本の中で初めて紹介されたことで、一部のコレクターに
珍重されるようになったが、情報も無ければレコードも出回らず、今でもその素性はよくわからないままらしい。 自己名義の作品も私が知る限りでは、
レコードが4枚、CDが2枚のみ。

本当なのかどうかはわからないが聞いたところによると、お金持ちの家柄でがつがつ働く必要が元々なく、残したレコードも知り合いや仕事の関係者に
配る分だけプレスして終わったらしい。 このレーベルも本人の関係者の私家レーベルらしく、共演して知り合ったルード・ブリンクを誘って1枚レコードを
作らせたりした。 アメリカのベテランとの共演も多いようで、ジャック・マクダフやスティーヴ・レイシーらのレコーディングにも参加しているようだ。

このアルバムはバリトン、ベース、ドラムのピアノレス・トリオで1987年5月18日にヴェローナのCIMスタジオで録音され、1988年にリリースされている。
スタンダードをメインにしたアメリカのジャズを志向した平易な内容で、その選曲はタイトル曲や "Bye Bye Blackbird" などいささか古めかしいが、
演奏は非常に現代的な質感でそのギャップに驚かされる。 私家盤にも関わらず録音がとても良く、深く澄んだエコー処理がオーディオファイルを
喜ばせる音場感になっているし、演奏もスピード感とキレがあり、非常に清潔でスタイリッシュな印象だ。

バリトンサックスの音を乱暴に分類すると、ジェリー・マリガンのような柔らかくソフトな音とペッパー・アダムスのような硬質な音に分けられるが、
ブルーノ・マリーニの音は後者に属する。 ただ、そのフレーズはアダムスのようなドラマツルギーに満ちたそれではなく、スタン・ゲッツのような
なめらかに流れるようなフレーズで、そこにこの人の他にはない個性がある。 そして、録音の良さがそのバリトンの深い音を際立たせている。 

そういう諸々の要素がいい方向に出ていて、第一印象はやたらカッコいい。 でも、何度か聴き返していくうちに今自分が感心しているのは、ジャズを
輸入品として上手く処理して、一番美味しいところだけを手際よく抽出してみせるセンスの良さと器用さに対してなんだな、いうことに気付いてしまう。
こういうところは、奇しくも同じイタリアのバッソ=ヴァルダンブリーニに対して抱く感想とまったく同じだ。 

この作品しか聴いたことがないので他の作品の内容がどうなのかはよくわからないが、おそらくは同じような傾向なのではないだろうか。
ただ、その少ないカタログの中にはフリーに寄った演奏もあるようで、それには興味をそそられる。 そこにはもう少し違う何かがあるのかもしれない。



      

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