廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

1曲のためだけに聴くレコード

2019年01月14日 | Jazz LP (Riverside)

Zoot Sims / Zoot !  ( 米 Riverside RLP 12-228 )


私が初めて聴いたズートのレコードがこれだった。 もちろんOJCの薄っぺらいレコードだったけれど、音は良かったと思う。 片岡義男のエッセイの中に
彼の手持ちのレコードを写したスナップショットが載っていて、その中に確かこのレコードが写っていた。 それでこのレコードのことを知ったんだと思う。
当時はそういう限られた情報を頼りにレコードを探していた。 そこにはジョン・アードレーの "Seven" なんかも一緒に写っていた。 

ニック・トラヴィスとの2管編成の演奏はどれも軽くて特にいいとは思わなかったけれど、1曲だけ心奪われた演奏があった。 それが "Fools Rush In"。
短い演奏時間でさらっとした吹き方だけれど、こんなに素晴らしく歌っているバラード演奏は聴いたことがなかった。 これがきっかけでズートのレコードを
片っ端から探すようになったし、この人はバラードプレイヤーだと頭の中にイメージが刷り込まれた。

アドリブのはずなのに、まるで譜面に書かれたような練りに練ったソロ・フレーズがすごいし、吹く息の緩急の付け方も完璧じゃないだろうか。
この演奏でこの曲も好きになり、シナトラの若い頃の名唱も知った。 1つの名演から手繰っていって、音楽の嗜好は拡がっていった。

若い頃に感銘を受けた音楽は一生忘れない。 それ以来、状態のいい完オリを探し続けて30年、ようやくまともなものがやってきた。 30年、である。
指折り数えてみると、それは気の遠くなるような時間に思える。 もちろん許容できる金額の範囲内で探したからこれだけの時間がかかった訳だけれど、
そういうこだわりを持ってかける時間というのは苦痛ではない。 

このアルバム、この1曲以外はまったくもってつまらない。 名盤扱いされないのは当然の内容だ。 名盤が多いという印象が強い人だけど、実際のところは
彼のアルバムにはそういうものが多い。 デュクレテ・トムソンなんかもまさにそうだろう。 それでも名盤が多いとされるのは、彼の場合はその1曲の演奏の
素晴らしさがそのままアルバム全体の印象へとうまく転嫁できているようなところがあって、作品というのは多かれ少なかれそういうところがあるものだけど、
ズートはそれが顕著だったように思う。 だた、だからと言ってアルバム作りが上手かった、と言ってしまっていいのかどうかはちょっと微妙な気はする。

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