廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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ジミー・ジュフリーを見直す

2020年02月22日 | Jazz LP (Verve)

Jimmy Giuffre 4 / Ad Lib  ( 米 Verve MG V-8361 )


人知れず佇む傑作である。どうして誰も褒めない? まあ、こんなのは誰も見向きもしないのかもしれない。

ジミー・ジュフリーと言えば、"真夏の夜のジャズ" での "The Train And The River" ということでAtlantic盤を手に取って大体が終わりだろう。
カントリー&チェンバーなジャズという1つのスタイルを確立したAtlantic諸作は見事だけれど、ワンパターンなので飽きがくるのも早い。
そこで他の作品も、と手を出すとこの人はその後フリーに接近するので、ほとんどの人がそこでついて行けなくて諦めることになる。
だから、このアルバムも当然見落とされる。

これがジミー・ロウルズ、レッド・ミッチェル、ローレンス・マラブルをバックにしたテナーのワンホーンでスタンダードをゆったりと演奏した、
管楽器奏者としては王道の、でもジュフリーのカタログとしては異色のアルバムだということはおそらくほとんど認識されていない。
そして、ここではテナーがまるでロリンズのような音色で朗々と鳴らされていることも知られていない。映画を観た人は、この人はゲッツのような
テナーを吹く人なんだという認識で止まっているだろうが、それはある一面でしかない。テナーをクラリネットに持ち替えて演奏される曲もあるが、
音楽的なスタイルは何も変わらない。

ブラインドで聴けば、ほとんどの人がロリンズのアルバム?と思うであろうこの演奏、ジュフリーはわざと物真似をしてみせて、こういう風にも
吹けるのだ、と言いたかったのかもしれない。楽曲のテンポの取り方もロリンズが好むタイプのもので、徹底的にコピーしているように思える。
音色だけではなくフレーズもそっくりで、"Ad Lib" というタイトルはロリンズの代名詞としての暗喩なのではないだろうか。

そう考えると、ジュフリーという人の一筋縄ではいかない音楽の痕跡がここでもしっかりと残っているのがわかる。自分の素の姿をさらさず、
常に何かの仮面を被っている。聴き手が近づいてくるのを拒むかのような距離感の取り方がいかにもこの人らしいと思うのだ。

そういう思念が一通り巡り終わると、このアルバムを純粋に楽しむことに没頭すればいい。極上のワンホーン・ジャズだ。バックのトリオの演奏も
上質で繊細で懐が深く、最高である。愛着の持てないジャケットだけど、これは傑作。間違いない。

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