廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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マイルス・デイヴィス 私的ベスト1

2020年01月01日 | Jazz LP (Columbia)

Miles Davis / Porgy And Bess  ( 米 Columbia CL 1274 )


新年の縁起物は毎年マイルス・デイヴィスということになっているので、今年もやる。

私が最も好きなマイルスのアルバムは、この "Porgy And Bess"。好きなものベスト〇〇というのは大抵の場合はその時の気分で変動するものだけど、
これに限っては不動の1位である。

このアルバム全体を貫いて流れる暗く不気味なモードの雰囲気がたまらない。原曲のスコアがあるので完全なコードレスというわけにはいかないが、
それでもギル・エヴァンスはこの作品のカラーを完全に塗り替えることに成功しており、まったく新しい音楽を提示した。中でも最も秀逸な事例は
"Summertime" で、これは凄いアレンジである。マイルスが取るリードの背景で重奏の似て非なる旋律が併走しながら絡み合って溶け合っていく様が
恐ろしい。

オーケストレーションというにはあまりに旋律的で、第2のリードパートのような背景が深みを持ってじわじわと拡がっていく。マイルスのラッパが
全編に渡ってとてもよく歌っており、彼が誰よりも歌を聴かせることができるトランペッターだということを証明している。テナーサックスが1人も
いない重奏の音色がとても新鮮で、ありふれたジャズのサウンドとは根本的に違っているのがいい。

元々は土着的で蒸し暑い夏の夜を想起させる内容だが、ここではグッと都会的に洗練されながらも抽象的なテクスチュアーがうっすらと施された
後にも先にも聴いたことがないような音楽へと変容していて、単なるジャズの1アルバムというレベルでは片付かない話になっている。
それでいて1度聴くと、その手触りや質感は忘れようがないほどクッキリと心に残る。学生時代に初めてこのアルバムを聴いた時、事前にイメージ
していた雰囲気とはまったくかけ離れた内容に非常に戸惑ったけれど、その時に残った印象は好き嫌いを超えてあまりに強烈だった。
私にとって、このアルバムがもたらすインパクトは "Kind Of Blue" のようなわかりやすい異質性などとは比較にならないほど大きかった。

以来、このアルバムが最も好きで、現在に至っている。高級ブランドの広告写真のようなジャケットのアートワークも素晴らしい。
すべてのジャズアルバムの中でこのジャケットが1番好きだ。







うちにはこのアルバムが2枚ある。好きなアルバムだからということもあるが、もう1枚は Side B が手書きマトリクスだからだ。
コロンビアのような量産プレスのレコードに手書きマトリクスがあるなんて知らなかったので、これを見た時は非常に驚いた。

気になる音質だが、通常の機械打ちよりも残響に深みがあるような気がする。最初の写真のものはコレクターが喜ぶプロモ盤だが、それよりも
音場感にグッと深みがあるように聴こえる。レコードの音の良し悪しはスタンパーの問題もあるが、それ以前に塩化ビニールの素材に原型を
何秒間押し当てたかというプレス時間に依存する。ラジオ局や販促用・評論家向けに配布されたいわゆるプロモ盤が音がいいと言われるのは、
それらのレコードが通常のレギュラー盤よりもプレス時間が長めに製造されているからだ。レコード会社はレコードをたくさん売るために
できるだけいい音で聴いてもらえるよう、意図的にそういう特殊なプレスをして関係先に配布した。これは実際に製造工場でレコードを作って
いた人から間接的に人を通して聴いた話なので、どうやら本当のことらしい。ただ、私の経験上、プロモ盤だからどれもがレギュラー盤よりも
音がいい、という話は嘘だと思う。聴き比べても、何も違いがないタイトルはたくさんあった。

上記の2枚については気のせいかもしれないけれど、感覚的にはそう思えるのだから、手書きマトリクス盤が手許に残っている。
ちなみにこれを買ったのはDU 新宿ジャズ館で、値段は2,160円。値札には特段何もコメントはなかった。

やっかいなことがもう1つ。 "Kind Of Blue" のモノラルプレスにも Side A に手書きマトリクスが入った盤がある、ということだ。
私は実際に見たことがないが、どういう音がするのかちょっと興味がある。


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2 コメント

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Unknown (senriyan)
2020-01-03 18:37:09
明けましておめでとうございます。

私は”IT AIN'T NECESSARIKY SO”のRADIO STAION COPYを持っています。カップリングはなぜかの”ALL BLUES”なんですが。
”IT AIN'T NECESSARIKY SO”やはり記事に書かれていたような音場感に深みを感じるように思います。ギル・エヴァンスのオーケストラも後ろからマイルスのラッパを押し上げる迫力もあります。
どうやら、このどうやら、作品、アルバムのプロモ盤はどうやら大当たりのようですね。なるほどの私的ベスト1です。

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Unknown (ルネ)
2020-01-03 20:48:27
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
45回転は元々音がいいから、尚更のことでしょう。
このアルバムは題材がいいので、よほどのことがない限り駄作にはならないと思いますが、
それでもこのアルバムはとびきりの傑作だと思います。
聴くたびに感銘を受けます。
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