廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

静かな朝に聴き比べると・・・

2016年01月02日 | Jazz LP (Argo)


Art Farmer / ART  ( Argo LP 678 )


年明けの静かな朝、最初に聴くのに相応しいのは何かと考えてみるとこれしか思いつきませんでした。

今ではとても好きなこの作品、実は若い頃はまったく良さがわかりませんでした。 名盤100選には必ず出てくる定番中の定番なので当然早い時期に
聴きましたが、バラードアルバムを期待していたのに全体的にミドルテンポのものがメインだったことにがっかりしたし、「リリカルな演奏」という話
だったにも関わらず意外にざらっとした粗削りな質感で、それはその時に私が求めていたものとは大分違ったからです。 

ところがその後時間を置いて聴き直してみると、そのざらっとしたところが逆に良くて、それからは手放せない愛聴盤になった。 トミー・フラナガンの
トリオも世評で言われるほどいい演奏をしている訳ではないのですが、それがかえってファーマーのトランペットの語り口の上手さを対比させることに
なっていて、ますますワンホーンとしての魅力が引き立っているようなところがあります。 そういう演奏の細部がわかるようになったのは、状態のいい
オリジナル盤を聴いたことがきっかけでした。

ただ、このレコードのモノラル盤のレーベルにはグレイと黒の2種類があって、昔からどちらがオリジナルなのかという話が絶えない。 25年くらい前は
黒のほうがオリジナルだとみんな言っていましたが、最近はグレイがオリジナルでいいということになっている。 まあ、はっきりしない訳です。
そこでこの2種類を改めて聴き比べしてみると、いくつが気が付くことがありました。

私が演奏の良さに気が付いたのはグレイのほうを聴いた時です。 こちらはトランペットの音が大きく前に出ていて、音のかすれ具合なんかも生々しく、
ファーマーが吹く息の風圧を感じることができるような質感があります。 それに比べてバックのピアノトリオは位置的に少し奥に引っ込んだ感じで、
ピアノの音も少しくぐもったような音で、そのせいでファーマーのトランペットがすごく映える音場感になっている。

一方、黒のほうは4人が並んで演奏しているようなバランス感です。 トランペットの音はこちらのほうが粒子がきめ細かく、そのせいで音そのものに
光沢があるような感じでこちらのほうが客観的にはきれいな音ですが、風圧を感じるような勢いは少し後退しています。 ピアノの音もシンバルの音も
同じ傾向で、こちらのほうが音自体はきれいな音です。 ただ、全体的に纏まりがいい分、演奏の魅力があまり伝わってこない印象です。

これらは聴き比べてみて初めて気が付いたことですが、聴き比べるとその違いが割とよくわかります。 それに、そこまで分析的に聴かなくても、
直感的にグレイのほうがいい演奏に聴こえる、という印象を持つのではないでしょうか。

どうもこの色の違いは製造時の部材余剰の都合などではなく、意図的に使い分けているんじゃないかという気がします。 どちらかが初版で、もう片方は
マスターが劣化して質感が変わっている、という種類の違いではなく、マスターそのものが2種類存在したんじゃないかという感じなのです。 盤の製造
過程の中での話ではなく、ミキシング自体が微妙に違っている感じです。

黒はプレス枚数が極端に少なかったらしくて見かけることが滅多になく、これが「黒の方がオリジナルじゃないか」という風説の元になっていて話を
ややこしくしているのですが、私の感覚では黒の方は間違ったマスターを使ったプレスだったのですぐに製造を止めて、かといって廃棄しなけれいけない
ほど音質に問題があるわけじゃないので(実際問題、当時こんなことに気が付く人なんていなかったに違いない)、レギュラープレスのグレイと識別する
ために色を黒に変えてこっそり発売して売り逃げた、という程度の話だったんじゃないかという気がします。

従って、「DGグレイがオリジナル」という現状認識は正しくて、音楽重視ならグレイ、稀少性重視なら黒、という持ち方をここに提案致します。
(正月早々一体何を書いてるんだ、と呆れながらも、備忘録として削除せずにアップすることにしました。)


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