Peter Brotzmann / Nothing To Say : A Suit Of Breathless Motion, Dedicated To Oscar Wilde ( 独 FMP CD 73 )
あまり見かけない珍しいブロッツマンの作品があったので、すかさずゲット。 1994年9月にベルリンで録音された無伴奏ソロだ。
複数種の管楽器を曲ごとに使い分けており、飽きさせない構成になっている。
オスカー・ワイルドに捧げる、という副題の通り、ワイルドの詩や戯曲から得た印象をブロッツマン風に描いた作品だが、ワイルドのことはほとんど何も
知らない(ドリアン・グレイや幸福な王子くらいしか読んだことがない)私にはこれが如何にもワイルドから得たインスピレーションなのかどうかは
さっぱりわからない。
耽美派文学の先駆者に捧げた作品ということもあって、全体的にはいつもの激情は影を潜め、物憂げな独白という様相を呈している。
ゆったりとした穏やかな表情の演奏が多く、こういう姿は珍しい。 抒情的ですらある。 自身の語法で何事かを語りかけてくる。
フリー系の怪物としてスタートした彼だが、ある時期を境にそういうフォームからは脱皮して1人の芸術家として我々の前に立ちはだかるようになった。
この作品も明らかに1つの自立、独立して完成された芸術品としての佇まいがあって、そういうものを見た時に共通して受ける感銘がある。
あまりの多作ぶりに鑑賞が追いきれないが、それでも丁寧に聴いていくとやみくもにリリースされているわけではなく、留まることのない自身の内的活動を
うまく作品化することに長けていただけなんだろうということもわかってくる。 本気で対峙するにはこちらもすべてを投げ出してかからないといけない巨峰だが、
私にはとてもそこまでできる覚悟はなく、こうやってちまちまと中古を漁ってはこそこそと聴くのが関の山だ。
それでも、あきらめることなく、これからもぼちぼちと聴き続けていくことになるのだろう。 それだけは今のところはっきりとしている。