廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

作曲家としてのビル・エヴァンス

2017年10月09日 | DVD

Kronos Quartet / Music Of Bill Evans  ( 米 Landmark Records LLP-1510 )


ジム・ホールはエヴァンスゆかりの人ということもあって、ここにも3曲だけだが参加している。 "Turn Out The Stars" での彼の演奏は素晴らしい。
どんな形式の音楽であっても、臆することなく取り組んだその姿勢は素晴らしいと思う。

ビル・エヴァンスの作曲家としての顔をクローズアップさせたのは、この作品が初めてだったように思う。 エヴァンス自身の演奏ではメロディーラインの美しさが
よくわからなかった "Very Early" や "Turn Out The Stars" がこんなにも優美な曲だったのか、ということをこのアルバムが教えてくれた。

この演奏がよかったのは、これらをジャズとしては捉えずに現代音楽として消化したところにある。 エヴァンスが作ったこれらの曲をエバンス以外のジャズ
ミュージシャンが弾いて上手くいった事例は私の知る範囲ではほとんどないけど、それは元々がジャズ向きの曲ではないからじゃないだろうか。 和音の構成も
織り込まれたリズムも、ジャズの規則ではまったく処理ができないような種類のものであることは明らか。 だからこそクロノスの目に引っかかったのだろう。

クロノス・カルテットはこれらの曲からエヴァンス特有のリズム処理をすべて削ぎ落して、旋律とハーモニーだけを抽出する。 すると、エヴァンスの演奏では
濁って響いていたように聴こえていた和音の箇所も、実は合理的に音が重ねられていたのだということがよくわかるようになっている。 そうやって隅々まで
楽曲を整理し直して演奏されているから、結果的にこれ以上ないほど美しい音楽として残ることになった。 一般的にはジャズ・ピアニストとしてしか見られる
ことのないビル・エヴァンスを違う側面から見せるこの作品は、ジャズファンに心地好い衝撃を与えてくれる。


最近DVDとして発売されて話題になったブルース・スピーゲルの "Time Remembered, The Life And Music Of Bill Evans" も同様で、もっと多角的に語ることで、
レコードからだけでは絶対にわからないエヴァンスの実像が浮かび上がってくる。 エヴァンスの暗い側面を公平に扱っていて、それがどれほどエヴァンスと
その音楽を蝕んでいたかがよくわかるけれど、それ以外にも今まで知らなかったエピソードがたくさん出てきてなかなか面白かった。

例えば、デビュー作の "New Jazz Conceptions" が発売直後の1年間の総売上枚数がたったの800枚だったとオリン・キープニュースが苦笑いしながら
語っていたり(だからこのレコードは中古市場に全然出てこないのだ)、海外ではセカンド・アルバムの "Everybody Digs" の評価が高いという話だったり、
ヴァンガードでのライヴの時のエヴァンスはドラッグでボロボロで、とてもレコーディングできるような状態ではなかったという話だったり、そのどれもが興味深い。

ジャズという音楽がどれほどビル・エヴァンスという人に負っているか、ということがいろんな作品に接すれば接するほどよくわかる。





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