廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

クラウドファンディングとジム・ホール

2017年10月08日 | Jazz CD

Jim Hall / Magic Meeting  ( 米 ArtistShare 2060107000088 )


マリア・シュナイダーも所属しているクラウドファンディング・レーベルの先駆けであるアーティスト・シェアから2004年に5,000枚のみリリースされたジム・ホールの
最晩年の作品。 その後、しばらく絶版状態が続いて高額廃盤化していたが、この度ようやく再発された。 こういう地味な作品は地道に新譜リリース情報を
追い駆けていないとどうしても取りこぼしてしまう。 怠け者の私にはそういうのは無理なのではなから諦めているが、今回は偶然知ることができた。

2004年4~5月に行われたヴィレッジ・ヴァンガードでのギター・トリオのライヴで、ジム・ホールの音楽家としての変わらない日常のひとコマを切り取ったかのような
内容だが、彼が常に進化して歩みを止めなかったことを証明するような演奏になっている。

自身の3つのオリジナル曲やジョー・ラヴァーノのオリジナル曲を中核に置いた構成で、これが抽象性の高い演奏になっていて、彼の先鋭さをよく表している。
枯れて停滞した様子は皆無で、エフェクターを屈指してみたり、アコギのような音を出してみたり、と曲ごとにその表情は変わるし、浮遊するような感じや
無機質で幾何学的な感じを取り入れたり、といろんなことをやっている。 だから、ジム・ホールは聴く価値のあるアーティストなのだ。 老人の退屈な手遊び
とは無縁の人である。

ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴというと音質の悪い録音で当たり前、という暗黙の了解があるけれど、このCDは音がとてもいい。 残響でごまかすことなく、
生々しいリアルな音場感だ。 楽器の音もクリアで、バランスも極めて自然。 時代が変わったんだな、と思う。

2000年代に入ってからアメリカではジャズに限らず、ロックなんかの世界でも既成の資本には頼らない形でのアルバム制作が目立つようになってきた。
テクノロジーの進化で音楽産業はすっかり様変わりして、音楽を聴く側からすると手段が細分化された分、却って不便さを感じることのほうが多くなった。
レコードを買うか、コンサートに行くか、の2つで事足りた時代にはもう戻れない中で、アーティストもリスナーも手探りで音楽と戯れる時代が十数年続いている。
このアルバムも当初はアーティストシェアのネットでCDをオーダーする形式だったらしいが、そういうのはなんだか味気ない話だと思った。
週末の大雨が降る中、仕事帰りにお店に立ち寄って音盤を買って、家に帰ってオーディオセットで聴くという慣れ親しんだ行為に安らぎを覚える。
CDという媒体自体には別に何の愛着もないけれど、聴くまでのプロセスというか、関わり方というか、そういうところには少しこだわりがあっていい。
ジム・ホールの音楽はそういう聴き方が相応しい、という気がした。


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