Charles Mingus / Jazz Composers Workshop ( 米 Savoy MG-12059 )
1954年と1955年に行われた2枚の10インチ録音を1956年にカップリングしたアルバムだが、この時点ですでにワークショップを名乗っている。
そして、既にミンガスの音楽が展開されているというのが驚きだ。 ルイ・アームストロングのバンドのベーシストとしてキャリアをスタートさせ、
パーカーと共演し、エリントン・オーケストラを解雇されるという最強の履歴書を書くことができる人だけに許された、唯一無二の音楽。
まるでクラリネットのようなラ・ポータのアルトが躍るアーリー・スイング・ジャズがあるかと思えば、3管が思い思いのフレーズを流しながらピアノが
調性を外れたコードで移ろう無調の曲までが立ち現れて、これが54年の音楽かと絶句する。 55年のセッションになるとそういう傾向は更に顕著になり、
トリスターノの音楽理論も取り込んだかのような傑出したムードで完璧に統一される。 マイルスやロリンズがまだよちよち歩きをしていた頃、既に
ミンガスはこんな音楽をやっていたのだ。 ジャズという音楽のいつコードの決まり事から逸脱してもいいという特性を最初に見抜いたのはこの人だった
のかもしれない。
でもそこには難解さは全くない。 非常に落ち着き払った静かなムードでしっかり統制されている。 まるで、灯りが落ちて闇が降りた深夜の人気のない街の
どこか遠くから反響して聴こえてくるような都会的な音楽だ。 テオ・マセロとジョージ・バロウが操るテナーとバリトンの深いトーンが孤独な影を作りだし、
ウォーリー・シリロのピアノが石畳の街路を宛てもなく彷徨うように響く。
作曲にこだわったミンガスの最初期の作品として、ワークショップの原石というよりは既に完成した音楽が静かに刻まれている。 50年代前半のある時期に
創られた多くのアーティストのアルバムには上述したようなある共通した雰囲気が共有されているものだけれど、このアルバムにもそれがある。
ミンガス独自の音楽ではあるけれど、それは当時のニューヨークの空気をしっかりと吸って時代と間違いなく繋がっていたことを感じることができるのだ。