廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

文物と日用品の違い

2018年09月30日 | Jazz LP (Argo)

Sandy Mosse, Ira Shulman, Eddie Baker / Chicago Scene  ( 米 Argo LP 609 )


50年代のアメリカのジャズ・シーンの中心はニューヨークとロサンジェルスだった訳だが、それ以外の地方都市でも多くのミュージシャンが盛んに
演奏していた。 当時はジャズを聴かせるナイト・クラブが全米に無数にあったし、2大都市ではTV・ラジオ放送や映画のサントラなどで
ジャズ・ミュージシャンの重要が多く、彼らはどこにいても仕事はいくらでもあった。 特別な野心に燃える者は2大都市へ行き、
そうでない者は地元を拠点に活動していた。

"Argo" というレーベルはシカゴのチェス・レコードのジャズ部門として始まったわけだが、レーベルのアイデンティティーとして地方都市で
活動する演奏家を大事にして、レコーディングの機会を提供した。 アーマッド・ジャマルにしろラムゼイ・ルイスにしろ、このレーベルが
レコードを作っていなければ幻のピアニストで終わっていたかもしれない。

その流れの一環で、お膝元であるシカゴで地道に活動していた演奏家を集めて作ったのがこのレコードということらしい。ライナーノートには
各メンバーを1人ずつ名前を挙げて丁寧に紹介するなど、愛情のこもった作りになっている。 レーベル・ポリシーの結晶のようなレコードと
言っていい。

ただ、2テナー、トランペットの3管にギターを加えたセプテットの演奏だが、これがおそろしく凡庸な内容だ。冒頭からラストまで同じような
ミドルテンポの演奏が続き、緩急が無くユルくて浅い単調な音楽が続く。 聴き終わった後に思い返してみても、どんな音楽だったのかが
思い出せないくらいだ。各人の演奏はどれもしっかりしていて、立派なプロの演奏ではあるけれど、音楽的な感動は見出せない。

でも、まあレギュラー・グループだったわけではないし、みんなフラッと集まってその場の打ち合わせだけで普段通りに演奏しただけなのだろう。
最初から何か特別な作品を作るためのレコーディングではなかったのだから、こんなものなのかもしれない。

音質もこのレーベルのモノラル録音のごく平均的なレベルで、そういう面でもパッとしない。奥行き感や立体感はなく、残響感も乏しい。
褒められるところは、唯一、ジャケット・デザインだけといっていい。ブルーノートを想わせる、夜の街を表現した意匠は素晴らしい。

当時のシカゴという街の、毎日繰り返されていた風景の1枚を切り取ったらこういう感じだった、ということだったのかもしれない。
アメリカのレコードにはこういう作品がたくさんある。こういう所が欧州やその他の地域のレコードにはない、アメリカ独特の特徴だ。
アメリカ以外の地域の演奏家は常に「新しい作品を創る」という気概を以って取り組んだが、アメリカでは普段着のまま録音されたものが多い。
ジャズという音楽が文物だった人たちと日用品だった人たちの違いがこういうところに現れている。


コメント (4)
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