廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

暗黒時代だなんて、誰が言った?

2018年09月15日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Art Blakey and The Jazz Messengers / Ritual  ( 米 Pacific Jazz M-402 )


ジャズメッセンジャーズにジャッキー・マクリーンがいた時期があることを認識している人はあまりいないんじゃないだろうか。 そして、その相方のトランペッターが
誰だったかをそらで言える人はもっと少ないだろう。 そういうのは、この時期が「ジャズメッセンジャーズの暗黒時代」と陰口を叩かれることがあることでもわかる。
おそらく、この時期を代表する有名作がない(例えば、"Moanin'"のような)ことからそういう言われ方をするのだろう。 
でも、暗黒時代だなんて、果たしてそれは本当のことなんだろうか。

ジャズメッセンジャーズというのは面白いバンドで、メンバーが変わる度に音楽がコロコロ変わった。 つまり、アート・ブレイキーはネームヴァリューという
インフラだけを提供して、後はメンバーの好きなように演奏させた。 バンド・オーナーとしてバンド内での生活態度は律したが、演奏する音楽そのものには
口出しをしなかった。 だから、在籍メンバーが入れ替わる毎に音楽の内容がガラリと変わった。 ホレス・シルヴァーの音楽を演奏し、ベニー・ゴルソンの音楽を
演奏し、そしてウェイン・ショーターの音楽を演奏した。 勿論、その時期ごとにそれぞれ代表作を残していった。

マクリーンとビル・ハードマンがフロントを張ったこの時期にもアルバムはそれなりに数は残っている。 そしてそれらをちゃんと聴いていくと、決して
暗黒時代なんかじゃないことがわかってくるのだ。


Pacific Jazz レーベルから出されたこのアルバムは、実際はニューヨークのコロンビア社のスタジオで録音されている。 パシフィック・ジャズが抱えていた
当代一の人気者のチェット・ベイカーのレコードをコロンビアのジョージ・アヴァキャンが自社で作りたかったために、コロンビアが当時抱えていたブレイキーと
交換留学生としてクロス・レコーディングしたのだ。 そのためだろう、珍しいエンジ色の特殊なレーベルを使っている(エンジ色はコロンビア・カラーだった)。

コロンビア録音なので、非常に音がいい。 マクリーンのアルトやハードマンのトランペットの音がナチュラルでキラキラと輝いている。 まずはこの音の良さに
殺られる。 マクリーンやハードマンには作曲能力がないからブルース形式のハードバップに終始していて地味な内容だけど、演奏は纏まりがよく、非常にいい。
これだけ質の高い演奏なのに評価されていないというのはどうにも解せない。 結局のところ、誰もきちんと聴いていないということなんだろう。

ブルースだけでは単調だと思ったのだろう、ブレイキーが黒人音楽のルーツとアイデンティティをナレーションとして語り、アフロ・ドラムのソロを1曲入れている。
このアルバムはこの人の音楽へのこだわりが力強く込められた、人知れず埋もれている傑作だと思う。





ジャケットの裏面にはレコーディング風景のスナップショットが並んでいる。 これがなかなかカッコいい。

コメント (3)
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