廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

レコード産業が成り立たない国で

2016年01月11日 | Jazz LP (Europe)

George Gruntz, Hans Kennel, Heinz Bigler, 他 / Swiss All Stars  ( スイス Exlibris GC 380 )


ジョルジュ・グルンツという人は60年代初頭の段階で欧州では既にある程度の大物として扱われていますが、そこに至る経緯がレコード漁りをしている範囲
だけではどうもよくわかりません。 我々の前に大物として姿を現す前の姿がほとんど記録されておらず、誰かのバックでピアノを少し弾いていることくらい
しかわかりません。 お出かけ好きだったらしく、あちこちの国のレコーディングに参加してはいますが、そのピアノだって特に何がどうということもない。

このレコードはそんなグルンツが1964年にスイスの腕利きたちを集めて大きめの編成を組み、スタジオライヴ形式で2枚組のアルバムとして録音したもので、
自身はバンドリーダとしてスコアを書き、ピアノも弾いています。 ただスコアを書いたと言ってもヘッドアレンジ程度のものだし、そのアレンジ自体も
アメリカの白人ダンスバンドからの引用が多く、アレンジャーとしてもどうなのよ? という感じです。 ところが、ここに集まったミュージシャン達の
1人1人の演奏が実に素晴らしく、結果的にそれが大きなボトムアップになってこのレコードがとてもいい作品に化けています。 アレンジの?なところは
そのおかげで全然気にならない。

この演奏の中で1番耳を奪われるのが、Heinz Bigler のアルト。 音はジャッキー・マクリーンそっくりで、吹き方はもっとなめらかで癖がなく、これが
圧倒的に素晴らしい。 こんな人がいるんだ、と調べてみましたが、どうもリーダー作が残っていないようで、唯一、未発表音源を集めた本人名義のCDが
1枚あって、廃盤セールの常連組になっているらしい。 バラードメドレーの中で彼が吹く "I Can't Get Started" はこの曲のベストかもしれません。

他のメンバーも演奏力が高く、レコードがあまり残っていないのが不思議です。 スイスという国はもともとレコード産業にあまり熱心ではなかった国で、
クラシックでさえレコードがあまり作られなかった。 販売も当時は通信販売の形態が主流だったようで、もしかしたらプレス工場もなかったのかもしれない。 
人口が少ない国だし、音楽産業はあくまで文化事業であって、ビジネスとしては成り立たなかったのかもしれません。 このレコードも事前の予約受付分の
300枚のみのプレスだったらしいですが、この手の話はあまり信用できないにせよ、スイスらしい話ではあります。

やっていることは定型的なジャズで没個性的で音楽的には何の面白味もありませんが、とにかく演奏があまりにしっかりとしているので、その力だけで
2枚組でも飽きることなく最後まで愉しめるところが見事なレコードです。 腕利きのスタジオミュージシャンが集結した散発的なセッション、という
感じなのが惜しい。 その後も一緒に演奏したライヴなどが私家盤として残ってはいるみたいですが、常設バンドとして本格的に活動していたら、きっと
音楽的にもっと発展したものが作れていたに違いないと思います。  


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もっとブラームスを

2016年01月11日 | Jazz LP

Carla Bley / Sextet  ( 西独 Watt/17 831 697 - 1 )


ようやく見つけた、カーラ・ブレイの最高傑作。 最愛聴盤なので家聴き用にレコードも欲しかったのですが、これが意外に見つからない。
CDと並行発売されていた時期のこういうレコードは売っても金にならないので出回ることがなく、本当の意味で入手困難盤になってしまう。 
ちょうどポール・ブレイが亡くなったというニュースが朝から流れていた日だったので、何か因縁めいたものを感じました。
こんなのジャズじゃなくてフュージョンじゃんか、という話もあるけれど、フュージョンで大いに結構。 私はフュージョンが大好きだから。 

カーラ・ブレイは人気があるのかないのかがよくわからない人です。 アメリカ人にしては珍しく芸術家っぽい雰囲気を持っているので、何となく貶しちゃ
いけないような気がするし、オーケストラを使ってフリーっぽいこともやってるし、いつも誰か才能のある男がそばにいるし、オルガンなんか弾いてるし、
ちょっと浮世離れした不思議ちゃん、というのが一般的な認識ではないでしょうか。 スイング・ジャーナルやジャズ批評などのジャーナリズムにも大体は
好意的に扱われていたし、何より玄人受けしているんだからきっとすごい人なんだ、という感じです。

つまり、この人は一般のリスナーからはその実像が捉えにくい、というのが本質にある人。 カーラ・ブレイのCDを買って聴いても、本人の演奏が前面に
出ているわけでも音楽の中心にいるわけでもないから、どれを聴いても今一つピンとこない。 カーラ自身は正規の音楽教育を受けてこなかったことや
自分のピアノの腕の無さにコンプレックスを持っているらしく、それがそういう立ち振舞いをさせてきたようですが、これだけ優れた音楽をやれるんだから
そんなの気にする必要はまったくない。

ここに収録された6曲のどれもが美メロ満載の名曲ばかりですが、その中でも冒頭の "More Brahms" が最高にいい。 ハイラム・ブロックの粘っこく伸びやかな
哀愁のトーンがどこまでも切ない。 ドン・アライアスの深いタメの効いたドラムも素晴らしく、こういうドラムが叩ける人は本当にごく一握りの人だけでした。

この曲でカーラはオルガンを弾いていますが、これが空間をセピア色に染めるような淡いトーンで素晴らしい。 カーラが作った曲ではこれが1番好きです。
彼女の芸術家としての顔とは別の、素の姿が上手く出たんじゃないでしょうか。

このレコードが出された WATT RECORDS というレーベルはカーラとマイケル・マントラーが興した自主レーベルで、ECMが全面的にサポートしています。
そのため、1987年のレコード発売時は西ドイツとアメリカの両国でECMがプレスしました。 


コメント (2)
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