Rolf Kuhn / Streamline ( オーストリア Amadeo AVRS 30-9005 )
ロルフ・キューンがアメリカ修行時代に録音した数少ないものの1つで、ロンネル・ブライト、ジョー・ベンジャミン、ビル・クラークらのピアノトリオを
バックにしたワン・ホーン。 メンバーのオリジナル曲とスタンダードを半々くらいの割合で演奏しています。
米国ヴァンガード録音ですが、ヴァンガードと言えば中間派の最高の演奏を録っただけでなくクラシックの中々いいレコードも作ったアメリカの良心のような
名門レーベルで、果たしてロルフ・キューンは水が合うのかなと心配してしまいますが、これが意外とすんなり納まっています。 ヴィジターらしく郷に
従ったんだろうとは思いますが、それにしてもなかなか器用な人だったようです。
ただ、聴き進んでいくにつれて、やはり同レーベルの他のアーティストたちの音楽とは少し雰囲気が違うことに気が付きます。 クラリネットの音色や
吹き方もそれまでのアーティスト達とは違い、弱いタンギングで音をはっきりとは区切らずにシームレスに吹いているし、音階も高音域を多用するなど、
これを「モダンな」と言っていいのかどうかはわかりませんが、とにかくスイングや中間派の人たちの吹くクラリネットとは明らかに違っている。
更に、音楽全体の雰囲気が中間派っぽくないのは、ロンネル・ブライトのピアノがかなりモダン寄りの演奏になっているから、というのもあります。
中間派というのは、表現者としての自我よりも形式そのものを何よりも優先・重んじる音楽。 そんな中にあってはロルフ・キューンにはまだ違う街の
雰囲気が漂う「転校生」のような馴染んでいない居心地の悪さみたいなところがあるので、レコードもさほど需要がなかったのか、ヴァンガード盤なのに
あまり中古市場でも見かけない1枚となってしまったのかもしれません。
図らずともそうなってしまったのか、それとも確信犯的にそうしたのかはよくわかりませんが、ちょっとムードの違うヴァンガードセッションになった
ものの、内容は全然悪くはありません。 全体的なまとまりもよく、地味ながらもしっかりした音楽を聴かせてくれます。 中間派特有のバタ臭さが苦手な
向きにも、このくらいのあっさり感のほうが却っていいかもしれません。
私が拾ったのは、当時米国ヴァンガードの欧州販売窓口になっていたオーストリアのアマデオ盤。 ヴァンガードのオリジナルの半値以下で買える、
お買い得盤です。