玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「子ども手当て」とデマ

2010年04月07日 | 日々思うことなど
当たり前のことだけれど、デマは良くない。
意図的にデマを流すのは悪いことだし、気付かずに引っかかった人は情けない。特に、デマを受け売りして広めてしまった人たちは大いに反省すべきだ(参考)。

子ども手当「外国人に590人分支給」 「まったくのデマ」で騒ぎに (1/2) : J-CASTニュース
 子ども手当について、在日外国人が母国にいる養子などを多数申請するのではと、ネット上で疑念が広がっている。神奈川県川崎市のある区役所ではアジア系の人が590人分の支給を受けるとの書き込みまであった。しかし、この区役所では、「まったくのデマ」と否定している。

590人分支給の書き込みがあったのは、2ちゃんねるのスレッド上で2010年4月3日朝のことだった。

「川崎市の高津区役所で590人分の子供手当てしてた アジア系の人いた さすがに別室に連れてかれてた どうなったんだろう」
川崎市高津区役所、問い合わせは数十件も

ブログでも紹介の書き込み 4月1日から申請手続きが始まった子ども手当では、母国に子どもがいる在日外国人でも、要件を満たせば支給が受けられる。子どもは、養子でも婚外子でもOKだ。これが、一部報道やネット上で、たくさん養子を作るなどしてどんどん税金が国外に持ち出されるのでは、との危惧になっている。

高津区役所のケースは、それを現実に見たというのだ。

2ちゃんでは、極端な人数のため疑問視する声が出たが、書き込んだ人は、それを否定。段ボール箱の半分ぐらいになった書類を窓口に置いて、「ショルイアリマス」と流ちょうな日本語で言っていたという。さらに、最初の書き込みから2時間後には、区役所の人に聞いたところ、手続きは順調に終了したと聞いたと報告。困った顔だったとしたものの、即日の審査で支給が成立したらしいと明かした。

これらの書き込みは、ブログにも取り上げられて、ネット上で波紋を呼んだ。これに対し、高津区役所のこども家庭課では、アジア系の人の訪問そのものも含めて「まったくのデマです」と否定した。何件も問い合わせがあったといい、困惑している様子だった。


この件に限らず、感染力の強そうなデマを見つけたときどうすればいいのか、なかなか難しい問題だ。受け売りでデマを広めるのは最低として、単に無視すればいいのか、きっちり批判する必要があるのか迷うことがある。「子ども手当て」デマについて私は最初「無視する」ほうを選んだけれど、今になって思えば間違っていたかもしれない。

はてなブックマーク - 川崎市の高津区役所で590人分の子供手当てしてたアジア系の人いたニートな2ちゃんねらー日記

はてなブックマークでデマの存在を知ったとき、ブクマ件数はまだ一桁だったと思う。自分もブックマークして「デマに決まってる」と否定コメントを書こうかと思ったけれど、「ブクマ件数を上げてかえって注目度を上げる・デマの拡大に手を貸す」のも嫌だなと思って無視するほうを選んだ。そのときは「バカらしいデマだからブクマが50くらいで収まるだろう」と思ったのだが甘かった。
なぜバカらしいデマなのかといえば、590人分の申請についてはともかく(無茶なことを企む勇者あるいはバカは常に存在しうる)、役所が疑いもせずただちに受理するなんてことがありえない。「お役所仕事」なんて言葉もあるように、役所というのは細かい書類の不備にケチつけたりもったいぶって引き伸ばしたりして申請がすらりと通らないのが普通である。生きるのにどうしても必要な生活保護でさえ難癖付けて認定を渋るのがお役所の体質だ。それなのに7670000円(!)という大金を支給する決定が即断即決なんてバカらしいにもほどがある。私が銀行で「一億貸してくれ」と言ったら即座に融資が決まる、というのと同じくらいありえない。
「子ども手当ては鳩山内閣の目玉政策だから」役人は恐れ入って盲判を押すだろう、と思う人もいるかもしれないが、実際に申請を受け付けるのは地方自治体である。市役所や町役場の職員は「国会で鳩山由紀夫が決めたのだ」と聞いても別に恐れ入ったりはしない。彼らは普通の国民(内閣支持率は約30%)の一人であり、地方公務員であって民主党政権の下僕ではない。ことさらにサボタージュもしないだろうが、特に張り切って民主党政権に忠義を見せるはずもない(「小沢王国」の岩手県あたりではどうか知らないが)。
民主党政権・鳩山内閣を信用できない人が多いのは仕方ないが(私もその一人である)、地方公務員をみだりにバカにしたデマを流すのは間違っている。

さらにこのデマは「ザイール大使館員」が登場する形に進化して広まった。私はデマは嫌いだけれど、「ザイール大使館員」を付け加えた人はなかなか気が利いていると思った。もちろん、かつてザイールと呼ばれた国は現在「コンゴ民主共和国」と名前を変えており、「ザイール大使館」など世界のどこにも存在しない。「頼朝公ご幼少のされこうべ」みたいな話でナンセンスな面白みがある。


さて、松沢呉一氏をはじめとした有志が川崎市高津区役所に確認してくれたおかげでデマであることが明らかになり、次第に沈静化した。だが、いまだにあきらめ悪くデマの残り火を燃やし続けようとする人もいる。

何でもありんす: 【政治】 2ちゃんねるの「子ども手当、590人分申請の外国人が」は「まったくのデマ」…他の自治体も「窓口、通常と変わらない」
外国人への憎悪を煽る者たち

「『590人申請』がデマかどうかはどうでもいい、子ども手当ての制度的欠陥のほうが問題だ」とか「デマであっても多くの人に問題を知らしめた意義がある」とかなんとか。お前らバカか、ふざけるのもいいかげんにしろ、と怒りが湧き上がる。
デマに引っかかって受け売りしたり、あまつさえデマを肯定したりすれば子ども手当てを批判する人たち全体の信用を損ない足を引っ張ることになぜ気付かないのか。「デマ上等!」と嘯きつつ「自分たちの意見を信じてくれ」と叫んでも笑われるだけだ。
民主党が「永田メール事件」を起こしたとき「メールは偽でも疑惑は真実だ」という謎のエルメス理論を唱えた河村たかし議員(現在は名古屋市長)は当然のごとく笑いものにされた。仮に原発反対運動家が放射能漏れ事故のデマを流して「原発の危険性を訴えるのに意味があった」と開き直ったら誰もが呆れるだろう。敵にデマを流して混乱させるのは立派な(?)謀略だが、味方にデマを流して煽るのはまったく愚かなことだ。


これまで「子ども手当て590人申請」デマを批判してきたけれど、さりとて私はべつに現在の子ども手当て制度を支持しているわけではない。絶対反対ではないけれど、懐疑派あるいは否定派である。「子ども手当て」はまぎれもなくバラマキ政策である。逼迫する国家財政のなかでなぜこんな途方もないバラマキをするのか、選挙目当てではないのかと大いに疑問をもつけれど、ばらまいた結果として世の中の景気が良くなったり出生率が劇的に向上したりすれば文句はない。まあ、そうなる可能性はせいぜい20%くらいだろうと思うけれど。
バラマキが海外(在留外国人)にも流れる点が批判されるが、これも程度問題であり、仮に子ども手当てが大いに実効を上げれば(私は信じていないが)数百億とか海外に流出したとしてもコスト的には問題がないといえる。とはいえ、「仕分け」パフォーマンスが大受けしたように日本人は「無駄」を大いに憎むから、「海外へのバラマキは無駄だ」「民主党政権は信用できない、税金なんてバカらしくて払いたくない」という世論が高まるのも無理はない。

海外流出を批判するのであれば、「養子が100人」とか「590人」とか極論やデマを使って煽るよりも、「10人分の申請があったときどのように審査するのか、金目当ての偽装養子を見分けられるのか」という現実的な問題を地道に訴えるほうがいい。
国籍法騒ぎのときは「偽装認知の怪」という記事で「そんなこと実際にやる奴はほとんどいないだろう」と断じたけれど、子ども手当てを期待した養子(偽装養子)は充分にありうる、むしろ起きなければおかしいくらいだと思っている。
国籍法改正の場合は外国人の立場で考えてみても偽装するメリットが無かった。日本国籍の価値は抽象的だし、実子でないのに実子として届けるのは明らかな嘘だ。「メリットが薄くて後ろ暗い」のだからわざわざやる意味がない。
だが子ども手当ては違う。少なからぬ現金をもらえるし、「親戚や知人の子どもを養子にする」のは悪いこと(偽装)ではなく人助けのいいことだ、と正当化できる。「はっきりした実利があり罪悪感もない」のであればやりたがる人は多いだろう。


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