玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

エクストリーム「子ども手当て」申請(その2)

2010年04月26日 | 日々思うことなど
前の記事では軽く取り上げたけれど、エクストリーム「子ども手当て」申請の実例が現れたことは決して笑い事ではすまない問題である。といっても、「数十人とか数百人単位の偽装養子がまかり通って日本人の財産がごっそり奪われる!日本はもう終わりだ!」みたいな与太話ではない。


尼崎市で「タイに554人の養子がいる」と申請したX氏だが、彼が提出した書類は本当に真正なのだろうか。タイ(「養子」の母国)および韓国(X氏の国籍)で正当な親子関係と認められているのか。報道を見る限り、その点はまだ確認されていないようだ。
私はたぶん偽造書類だろうと思っている。外国での養子手続きがどのように行われるのか知らないが、東南アジアでは子どもの人身売買が深刻な問題になっており、一度に(あるいは数年かけたのかもしれないが)554件という養子手続きが認められるとは信じがたい。書類が偽造であれば、X氏の行為は文書偽造および詐欺未遂に当たり、告発されたら金額と社会的影響の大きさから言って実刑を免れないだろう。

考えにくいことだが、書類はすべて真正であり、タイと韓国でX氏と養子たち(554人!)の親子関係が完全に認められていたとする。この場合はどうなるだろう?
2ちゃんねるあたりでは「書類が本物なら何百人分でもつべこべ言わず払うべき」みたいな意見が見受けられるが、煽りで言ってるのでなければまったくどうかしている。法律や行政をコンピューターゲームと勘違いしているのではないか。ゲームならどんなチート(ズル、騙し)をやってもお咎めなしに利得が得られるが、現実社会はそれほど甘くない。いや、ゲームであってもネットゲームなど他のプレーヤーや管理人がいれば極端なチートは顰蹙を買い、やがて禁じられる。
現実社会の法律と行政は一般的な常識や正義感を裏切ってはならない。少なくともそういう建前になっている。「554人分の子ども手当て申請で年間8.600万円ゲット」なんて濡れ手に粟みたいな話が簡単に認められるはずがない。もしもX氏が提訴したら尼崎市や国が「申請拒否の正当性」を主張して受けて立つのは間違いないし、裁判所も決して甘い判決は出さないはずだ。
…と思うのだが、実を言えば地裁あたりでは法律を教条的に解釈したおかしな判決が出ないとも限らない。とはいえ、それほど心配する必要はないだろう(ちょっと無責任)。

X氏の554人の養子の正当性を認めなければ外交問題になると言う人もいるが、心配しすぎだろう。そもそもタイや韓国で(他のどの国でも)「554人の養子を取って日本の手当て獲得をねらう男」が応援されるなんてことは考えにくい。むしろ「恥知らずだ」「何を考えて当局はこんな大量の養子を認めたのか」と批判する意見のほうが多くなるのではないか。
とはいえ、かのアニータ事件のときのチリのようにX氏がヒーローとしてもてはやされる可能性もある。外国の文化はそれぞれである。そして、もちろん日本には日本の文化、日本の常識がある。
タイや韓国の世論がどうであろうと、尼崎市と日本政府は「554人の養子などという無茶は日本では認められません」と押し通せばよい。それこそ文化の違い、常識の違いである。イスラム教徒が「母国では妻を4人持つことが許されている」と主張しても日本では認められないのと同じことだ。

今回は「554人」という極端な数だから「子ども手当て」支給適用外の判断に迷うことはないが、仮に5人、10人、15人、20人…の場合ならどうだろう。
厚生労働省のQ&Aで「母国で50人の孤児と養子縁組を行った外国人については、支給要件を満たしませんので、子ども手当は支給されません。」と書いてあるのを引き合いに出して「49人なら認められるはずだ」などと言う人もいる。冗談としては面白いけれど(いや、どうかな)、本気で言ってるならマニュアル脳にもほどがある。「50人」という記述は数字そのものではなく「非常識な(監護・生計の同一が成り立たないと推定できる)大人数」と置き換えて読むべきだ。
とはいえ、認定の基準である「監護」と「生計の同一」をどうやって確認するのかといった具体的な判断は地方自治体の職員にかかっている。厳しい担当者なら5人分の確かな申請でも根掘り葉掘り質問され、いいかげんな担当者なら10人分の偽装申請でもスムーズに認められるかもしれない。グレーゾーン(と呼ぶのも真面目な子沢山の外国人に失礼だが)の扱いがどうなるのか、政府・厚生労働省も地方自治体・現場の職員も「やってみなければわからない」というのが本音だろう。「子ども手当て」批判派が不正受給の横行を心配する理由は確かに存在する。


私がエクストリーム「子ども手当て」申請問題でいちばん心配しているのは、仮にX氏の「544人の養子」が実在した場合に多額の子ども手当てが容易に支払われることではない。その可能性はゼロに近い。そうではなくて、X氏が期待した支給を得られないことでタイにいるとされる「養子」がどういう扱いを受けるのか、ということだ。
X氏が本当に善良で裕福な篤志家であれば、子ども手当ての有無に関わりなく養親としての義務を果たすだろう。その場合はさほど心配することはない。心優しい人たちが民間で支援運動を行うだろうし、場合によっては全額ではなくても「子ども手当て」支給が認められることもあるだろう。
だが、X氏が濡れ手で粟をもくろんだ見通しの甘い詐欺師だった場合は大いに心配だ。それこそ「養子」を金のために利用し、過酷に扱う心配がある。元はといえばメチャクチャな大量養子を認めたタイ(と韓国)が悪いのだが、人権問題として日本も知らん顔はできない。
「怪しい申請は拒否された、よかったよかった」で済ませていい話ではない。X氏の544人の「養子」が実在するのか、X氏の意図はどこにあるのか確認する必要がある。事件の続報が待たれる。



以下は余談。
2ちゃんねるなどでは「形だけでも書類がそろっていれば何十人、何百人という申請でもそのまま認めるべき」「窓口での申請拒否は違法だ、人治主義でけしからん」みたいな極端な意見が目立つ。しかもそれが「子ども手当て」を無駄遣いだの亡国だのと批判する側から出てくるのに驚かされる。法の抜け穴を塞ぐのではなく、ネズミが通る程度の穴をがんばってゾウが通れる大きさに広げているようだ。
おそらく極論を叫ぶことで世間の関心を引き付け、「子ども手当て」を批判する味方を増やすつもりなのだろう。そしてそのやりかたは効果的だと認めざるを得ない。だが、「極論を叫んで煽ったもの勝ち」という手法は、それこそ2ちゃんねるで批判されてきたマスコミやノイジーマイノリティ(「サヨク」「人権派」「フェミ」)のやりかたと同じではないか。まったくうんざりしてしまう。
こんにゃくゼリーによる窒息事件が起きたとき「危険だ!許せない!販売禁止にすべき!」と主張した人たちと、「子ども手当て」の問題点(確かにいろいろと問題はある)をデマや極論を振りかざして糾弾する人たちといったいどこが違うのだろうか。むやみと大げさで客観的なリスク評価が存在しない点で見分けが付かないほどそっくりだ。どちらもヒステリー一歩手前というか、むしろヒステリー状態に近づく・演じることを楽しんでいる。
「草食系男子」が増えたなどといわれているが、ネットでは極論絶叫系が花盛りだ。いや、リアルでは自分を殺しておとなしくしている(そうすることを強いられている)ぶん、ネットでは極論を振りかざし怒りを叫びたくなるのかもしれない。


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3 コメント

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こども手当て (元起忠清)
2010-04-26 19:16:56
先日、報道で韓国人が外国の縁組子供554人の申請をしたとの事、全くふざけたこと断じて
認めてはならぬ。日本人を愚弄してる、外国に住む子供に対してはきびしく対処したもらいたい。
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余談での・・・ (gonzales66)
2010-04-28 20:09:23
内容には同意しますが、余談での「こんにゃくゼリー」の話は筋違いだと思います。
海外では実際に販売規制しているところが多いです。
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Unknown (nanami)
2010-05-01 19:21:55
所得制限をしておけばよかったんじゃないですかね。
554人の養子を実際に育てるだけの十分な資力があるならば、こども手当によって援助される必要はないでしょうから。
この件に関しては、お金がどうこうよりもレイシズムを剥き出しにする人達が一番嫌なんですが。
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