玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

お上手

2008年10月26日 | 政治・外交
政治家は言葉が商売道具である。
民主国家の政治家は自分の考えを広く説明し、国民の同意を得ないと政策が実現できない。
彫刻家がノミを大事にするように、政治家は言葉を大事にするはずだ。
それなのに、次の総理とも目される有力者がぞんざいな言葉遣いをしている。
私は小沢氏の支持者じゃないけれど、なんだか悲しくなる。

asahi.com:印首相との会談欠席 小沢氏「首相じゃないから」と釈明 - 政治
 民主党の小沢代表は24日の青森市での記者会見で、前日のインド・シン首相との会談を体調不良を理由に欠席したことについて「総理大臣になって首脳会談ということなら、多少体調が悪くても欠席することはない。私、野党だから。総理大臣じゃない。国務大臣でもない。勘違いしないでください」と述べた。


小沢氏の体調問題、シン首相との会談欠席問題はこのさい批判しない。私が悲しく思ったのは小沢氏の釈明だ。
「釈明」と言うけれどこれが釈明になっているだろうか。むしろ逆切れである。
「勘違いしないでください」という言葉から小沢氏の「問題視されること自体が不快」という思いが伝わってくる。

小沢氏の本音は、まあどうでもいい。
本当に不快に感じてそのまま口にしたのであれば正直だ。上に「馬鹿」が付くけれど。
小沢氏の「釈明」はまったくもって誰の得にもならない。アンチ小沢の人たちを喜ばせただけである。小沢氏の傲慢イメージは強まったし(2ちゃんねるはてなブックマークの反応)、インドの人が聞いたら不快に思うだろう。そこまでして「私、野党だから」「勘違いしないでください」にこだわる必要があるのかといえば、私には想像もつかない。言わないほうがマシな最低の言い訳だった。

世の中には「お上手」というコミュニケーションのテクニックがある。
事務的じゃなく、かといって露骨なお世辞でもない、微妙に相手の心をくすぐる言葉の技だ。
辞書には「お世辞。見えすいたほめ言葉。」と載っているけれど、ここでは「相手のテクニックとわかっていても(あるいは気付きもせず)つい気持ちよくなってしまうコミュニケーション能力」の意味で使う。

私自身は無神経で口下手なので実際に使いこなせはしないけれど、「お上手」な人にはいつも感心させられる。何十年も顧客対応を工夫してきたサービス業のベテランは本当にすごい。
以前とあるレストランで食事をしたとき不快なことがあって「マネージャーとお話させてください」と言ったことがある。そのとき出てきた人のことが忘れられない。Mさんという50代の女性なのだが、とにかく丁寧で親切そのもの。こわばった心がマッサージされるようで「この人と話すだけで不快感は消えた、その他の対応はなにもいらない」とさえ思ってしまった。5分後には眉間のシワが笑顔に変わっていた。
意地悪な見方をすれば「うまい言葉で丸め込まれた」のだが、後になって思い返しても不快な感じはいっさい起きなかった。
具体的にMさんが何を言ったのか実はあまり覚えていない。ちょっとしたチャームの魔法にかけられたようなものだから、心がフワフワして記憶力が(たぶん判断力も)まともに働かなかったのだろう。
もちろん、彼女のような人はざらにはいない特殊能力の持ち主である。ああいう人が詐欺師になったら社会に大きな損害を与える。とはいえ、というかだからこそ、サービス業じゃない素人も「お上手」のテクニックを知っておいて損はない。

小沢氏のような状況で「お上手」な人ならなんと言うだろうか。
私は残念ながら「お上手」じゃないのでうまい言い方を思いつかないが、ない頭を絞って考えるとこんな風になる。

 「はるばるおいでいただいたシン首相とお目にかかれず申し訳ありません。
  私自身もたいへん残念に思っています。
  近日中に民主党が政権をとりますので、来年にでも総理としてインドを訪問し埋め合わせしたいと願っております。
  本場のカレーを食べるのが今から楽しみです」

シン首相を無用に貶めず、小沢氏が傲慢とそしられることなく、民主党の政権獲得意欲もアピールできる。
あくまでもこれは最低限であって、本当に「お上手」な人であればもっとウィットを利かせて聞くものの顔をほころばせるだろう。
冷静に考えると、小沢氏が本当に総理になれるかどうか、インド訪問が実現するかどうかは単なる願望でしかない。だが小沢氏が聴衆に「うまいこという」「気が効いてるね」と思わせればそんな難癖はつけられない。文句を言うほうがほうが野暮になる。

小沢氏と対照的に「お上手」の名人だったのが小泉元総理である。
言葉よりも万国共通のボディーランゲージに秀でていた。

 
世界の首脳を笑顔に(クリックで拡大します)。


 
だれもが「面白い男が来た」と感じる。


   
子供のように興味を示し、楽しむ。

小泉純一郎の行くところどこにでも笑顔があった。
(これは小泉氏の「お上手さ」つまり社交的魅力をほめているので、政策の評価ではない。小泉嫌いの方々には「ネオリベが!」とか「格差が!」といった批判はお門違いだとあらかじめご注意申し上げる)

小泉氏のように天才的な人たらしの真似をする必要もないが、小沢氏はせめてがさつな言葉を使うのをやめてほしい。高倉健じゃあるまいし、いい年して責任ある立場の人間がいつまでも「不器用ですから」で済ませていたら甘えである。
小沢氏はがさつな言葉しか使えないほど言語能力が低いわけじゃない。選挙の応援演説ではちゃんと聴衆の心をつかむ。参院選だか補欠選だか忘れたが、地方の住宅街で「ミカン箱演説」をしたときは私も「なかなかやるな」と感心した。
それなのに、外国の賓客との会談をすっぽかしたときの釈明は無神経そのもの。自分の得になること(選挙応援)に使う神経はあっても、インドの首相のために使う神経はないのか。計算高いというかさもしいというか、決して尊敬できる姿ではない。
「勘違いしないでください」といった傲慢な言葉は小沢氏自身と支持者が損をするだけだ。それこそ野党であるうちは「ご勝手にどうぞ」だが、本当に総理になったら国民の士気や日本のイメージまで下がる。いつも不景気な顔の福田総理はズルズルと支持率を下げたが、このままだと「小沢総理」はそれ以上にメディア対応に失敗するだろう。
ついでに言うと福田氏はいつでもどこでも仏頂面で皮肉っぽいので、損得で態度を使い分ける小沢氏のような浅ましさは感じられない。私は福田氏のキャラクターは今でも好きである(世間受けしないのは無理もないが)。

小沢氏よ、お上手になれ! …とは言わないが(できるとも思えない)、私のようなものから「下手糞だなあ」と思われない程度には言葉の技を磨いてほしい。


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1 コメント

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Unknown (koge)
2008-10-27 02:08:55
しかし、彼はこれでもかつては与党の最大派閥で権力を握っていたことがあるんですよね。もし彼が単にコミュニケーション能力がない人なのであれば、地盤や金がいくらあっても初当選すらおぼつかないのではないでしょうか?
むしろ、ある種の人々は、このような傲慢な態度をとることが指導者にふさわしいものであると考えているのではないでしょうか。そして、そのような人が民主党あるいは党内での彼の支持者に多く、そのような人の支持なしでは彼の今の地位が保てないのだとしたら、このような発言で支持を固めようとするのは当然ではないでしょうか。