玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

やっぱり気になる「有言実行内閣」

2010年09月19日 | 政治・外交
「有言実行内閣」を宣言した菅総理の新内閣は高い支持率の追い風を受けて無事に船出した。
まずはご同慶の至り。

菅内閣支持率上昇、66%に…「脱小沢」を評価 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 読売新聞社は菅改造内閣が発足した17日から18日にかけて、緊急全国世論調査(電話方式)を実施した。

 内閣支持率は66%で、民主党代表選期間中の3~5日に行った前回調査の59%から、さらに上昇した。菅内閣としては、発足直後調査(6月8~9日実施)の64%を上回り、最高を記録した。不支持率は25%(前回28%)だった。内閣と党役員人事で小沢一郎元代表を起用しないなど、「脱小沢」路線を評価すると答えた人は70%に達し、内閣支持率を押し上げたとみられる。


私自身は菅内閣も民主党政権も支持しないけれど、菅総理がせっかく手に入れた高い支持率を世のため人のためうまく使ってくれれば文句はない。支持率は政治家にとって資産であり、かつ公共財である。まちがってもケチ臭く支持を失うことばかりを惧れ、必要な政策実行をサボるようなことがあってはならない。がんばれ菅総理。
…と書くとまるで熱心な支持者のようだが、半分以上は「(支持率)下り最速の伝説」の再現を見たいだけだったりする。今の高支持率はまさに「小沢外し」だけが評価されたもので、実際に政治を動かし始めれば菅氏自身の無能さと小沢派の逆襲でたちまちボロが出る。かといって小沢派に媚びればそれこそ国民の支持を失う。まさに前門の世論、後門の小沢。菅内閣は前途多難だ。

さて、前の記事でケチをつけた「有言実行内閣」なるキャッチフレーズ自体は世間に受け入れられたようだ。
菅氏の実行力に疑問をもち「どうせ有言不実行内閣になるだろう」と叩く人は多いが、「有言実行」という言葉自体が変だ、そんな日本語はない、と批判する人はほとんど見かけない。これはいったいどうしたことか。
麻生政権のときにささいな読み違いを槍玉にあげてさんざん笑ったり馬鹿にしたのとはずいぶん違う。「高支持率は七難隠す」というか、日本語ブームとやらの底の浅さを示すものと笑うべきか。私にとって「総理が自ら『有言実行内閣』と命名」というのは「総理が就任演説で『ら抜き言葉を多用』」と同じくらい、というと大げさだが半分くらいの違和感があるのに、どうやらほとんどの人は気にしないらしい。
別にワイドショーで笑いものにしろとは言わないが、「天声人語」などのコラム欄でちくりと釘を刺す、くらいのことはあっていいと思う。菅総理によって「有言実行」というパロディ四字熟語が公認され権威付けられたようでモヤモヤする。


「有言実行」の使われ方が気になってネットで調べてみた。

「有言実行」ってまともな四字熟語ですか?確かに定着した感があるんですが、もともと不言実行のもじりと思います。みなさんの感...(回答が古い順)|質問・相談が会員登録不要のQ&AサイトSooda!(ソーダ)
有言実行と同じ意味の言葉 | OKWave
《有言実行》という言葉はまちがいですか? - Yahoo!知恵袋
Q 《有言実行》という言葉はまちがいですか?
A だんだん使われるようになっていますが、本来は「不言実行」のパロディです。
  現在は大辞林にも載っているので間違いとまでは言わないでしょう。


相談サイトではどこでも「本来は『不言実行』のパロディ」という答が返ってくる。確認してはいないが、「広辞苑」に「不言実行」はあっても「有言実行」は載っていないそうだ。
私が「有言実行」という言葉を使うとしたらやはり「元はパロディだった」という意識を持つだろう。雑談で笑いながら「あの人は有言実行だから」と言うのはかまわないが、改まった場で使うのは憚られる。「有言実行」の「ちゃんとやるぞ、頼りにしてくれ」という主張と「元はパロディだった」というだらしなさのギャップがどうしても気になる。まがいものの言葉で人を褒めるのは失礼だし、パロディ四字熟語をそれと気付かず自分のキャッチフレーズにするのは恥ずかしいことだと思う。


菅氏は2003年9月にも「有言実行」という言葉を使っていた。

【政治】小泉首相との違いは「有言実行」女性支持率の低さは「世界の七不思議の1つだ」民主党・菅氏★2
「日本には『有言実行』という言葉がある」。民主党の菅直人代表は30日、党本部で行われた外国報道機関との記者会見で、こう語り、自らの実行力をアピールした。

どうやら菅氏お気に入りの言葉らしい。
ついでに見つけたのだが、安倍元総理が2006年の年末に「来年の抱負」として「有言実行」と色紙に書いている。

【政治】安倍首相、来年の抱負は「有言実行」 通常国会で教育再生関連法案の成立を目指す考えを強調
安倍晋三首相は25日午前、首相官邸で地元の山口放送などのインタビューに応じ、来年の抱負として色紙に「有言実行」と書いた。「何をやるかを国民に分かりやすく説明し、やると約束したことは必ず実行する」と説明した。

リンク先はどちらも当時の2ちゃんねるスレッド。菅氏にも安倍氏にも「『有言実行』ってのは『不言実行』のパロディなんだが」「『有言実行』という言葉は本来存在しない」と突っ込みが入れられている。

2003年9月に「小泉首相との違いは『有言実行』だ」と語った菅代表は翌年5月に年金未納騒ぎを煽った末に自爆した。
2007年の抱負として「有言実行」と色紙に書いた安倍総理は参院選で惨敗して9月に退陣した。
二例しかないけれど、どうやら「有言実行」と宣言した政治家は一年持たずに沈没するらしい。不言実行という「正しい日本語」をバカにした報い …ではなく、パロディ四字熟語を自らのキャッチフレーズとして使うような迂闊さが彼らの地位を奪ったのだろう。

「有言実行内閣」

2010年09月18日 | 政治・外交
菅総理が「有言実行内閣」を宣言したとか。

「有言実行内閣を目指す」菅首相が会見 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 菅首相は17日夜、首相官邸で記者会見し、改造内閣を「有言実行内閣」と命名した。

 首相は民主党政権の1年を「試行錯誤を繰り返した内閣だった」と述べ、「具体的なことを実行する有言実行内閣を目指す」と表明した。そのうえで、重点課題として〈1〉金融・財政対策〈2〉国際社会での活動〈3〉地域主権改革――の3点を挙げた。

最初に聞いたとき「あれあれ」というか「おいおい、やっちまったな」と感じた。
そもそも有言実行という四字熟語はない。
ない、といっても実際にはかなり使われている言葉ではある。使われてはいるのだが、それは元々あった「不言実行」をもじった表現なのだ。

ゆうげんじっこう【有言実行】の意味とは - Yahoo!辞書
〔補説〕 「不言実行」をもじって作られた語
言ったことは必ず実行すること。

菅総理の「言ったことはちゃんと実現してみせる」という決意はたいへん結構だが、「有言実行」というもじり表現(パロディ四字熟語)を使われると決意の中身まで軽く感じてしまう。「最近の政治家は漢学の教養がなくてけしからん」などと大時代なことは言わないが(漢詩が作れそうなのは麻生元総理くらいか)、私のように無教養な人間にも突っ込まれるようではちと情けない。どうせなら四字熟語(もどき)で気取らず素直に「実行力内閣」とか「決定力内閣」とか言えばよかったのに。


…などと菅改造内閣の門出に付いた瑕(?)を惜しんでいたら、菅総理の実際の言葉はちょっと違っていた。

【首相会見】詳報(1)「有言実行内閣と呼んで」(17日夜) (1/4ページ) - MSN産経ニュース
「これからはその試行錯誤を踏まえて、一つの具体的な事柄を実行していく有言実行内閣、こう皆さんが呼んでいただけるような、そういう内閣を目指す。有言実行内閣をまさに実現をしたい。このように考えております」

「菅総理が自ら『有言実行内閣』を宣言」というより「まず実績を挙げる、それによって『有言実行内閣と皆さんが呼んでいただける』ことを目指す」という感じである。大した違いはないようだが、映画監督が「観客を感動させる」と宣言するのと「観客に『感動した』と言ってもらえる作品を目指す」というのくらい違う(いや、やっぱり大して違わないかな?)。
なにはともあれ、60%だか70%だかの高い支持率を得た菅内閣にはそれにふさわしい立派な仕事ぶりを期待したいところであります(大いに期待します、とは言うまい)。

(追記)「不言実行」の由来について調べたら漢文とは無関係らしいので訂正しました。

カルト化した小沢信者と冷静な予測

2010年09月14日 | 政治・外交
民主党代表選挙が無事に終わり、新代表に菅直人総理が再選された。
私は菅氏には何も期待しないが、人の世の礼儀としてお祝い申し上げる。当選おめでとうございます、日本を良くするためにがんばってください。

asahi.com(朝日新聞社):民主代表に菅氏再選 党員・サポーター票で小沢氏に大差 - 政治
■民主党代表選の結果(敬称略。単位はポイント)

菅 直人721(国会議員票412、地方議員票60、党員・サポーター票249)

小沢一郎491(国会議員票400、地方議員票40、党員・サポーター票 51)


さて、意外なほどの大差が付いたわけだが、これまで小沢絶対有利だの圧勝だのと煽ったり脅したりしていた小沢信者さんたちはどうするのだろうか。自分がどこで希望的観測の罠に落ちたのか、現実と願望を取り違え精神主義に走ったのか、きちんと振り返り反省する   …なんてことはほとんど期待できない。いやありえないってマジで。
冷静に「小沢氏の実行力に期待します」と語る一般の小沢支持者はまともだが(私の意見とは違うけれど)、「小沢を勝たせないと日本が終わる」だの「『本当の世論』は小沢支持だ、小沢が圧勝する」だの目を釣りあがらせた小沢信者はほとんどカルトだ。まともな常識や反省は期待できない。かの”ミラーマン”植草一秀氏のように陰謀論を叫ぶのは目に見えている。

代表選菅氏辛勝を圧勝に粉飾して流布するマスゴミ: 植草一秀の『知られざる真実』

私は小沢一郎という政治家自身も好まないけれど、小沢氏を崇拝し陰謀論に染まった「小沢信者」のほうがもっと嫌いだ。今回の民主党代表選の結果でいいことがあったとすれば、小沢信者が勝ち誇る醜い姿を見なくて済んだことくらいだろう。


「現実と願望を取り違え精神主義に走った」小沢信者を罵倒した私自身の予測はどうだったかといえば、見事に当てたとは言わないけれどだいたい合っていた、少なくとも大外しはしなかったといえる。

世論の7割は菅総理の続投を支持(無能なのに) - 玄倉川の岸辺
小沢支持に数えられた議員の中で日和見したり寝返りをたくらむものが出てくるのは間違いない。

小沢氏の代表選出馬が明らかとなり、マスコミの票読みで小沢優勢が伝えられても菅総理の表情はなぜか明るかった。たぶん小沢氏の極端な不人気ぶりを知っていたのだろう。調子に乗るとたちまちコケるのが菅氏の芸風(年金未納追求→自身の未納が明らかに→お遍路、高支持率→消費税引き上げ宣言→参院選大敗)だから何が起こるかわからないが、小沢氏の「豪腕」にむざむざとしてやられることはなさそうだ。

今になってみれば当たり前すぎて自慢するような予測じゃないと言われそうだが、小沢氏の出馬が伝えられたときマスコミや政治通の多くが「豪腕」小沢の勝利や菅氏の大敗を予想していたのである。予想が外れるのは良くあることだが、外した人はちゃんと原因を見極めて反省しないとまた間違えることになる(偉そうなこと言ってごめんなさい)。
私のことはどうでもいいが、二週間前に小沢氏の惨敗を予想して見事に的中させた人もいる。

選挙プランナー 三浦博史の選挙戦最新事情 - 民主党代表選で小沢氏は惨敗する
多くのマスコミ報道によると、国会議員のマジョリティを押さえ、連合、党員・サポーター、さらには地方議員のマジョリティをも押さえつつある小沢氏が圧勝し、小沢総理誕生かの如く喧伝されています。

しかし、小沢氏は惨敗すると私は思います。

お見事でした。小沢信者のような熱狂とは距離を置き、三浦氏の冷静さを見習いたいと思う。