玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

「はやぶさ」と「はやぶさたん」

2010年06月15日 | 日々思うことなど
小惑星探査機「はやぶさ」がついに帰還した。7年間、60億Km(地球―太陽間の40倍)という長い長い旅の終わり。
アポロ計画以来、約40年ぶりにアメリカの彗星探査機「スターダスト」による「地球に帰還した宇宙機」の到達距離記録を塗り替え、小惑星「イトカワ」への着陸を実現し、絶望的な故障を乗り越えて地球への帰還を成し遂げたJAXAの人たちはまさに英雄的だ。素晴らしい成果に一人の宇宙開発ファンとして心から感謝する。ありがとうございました、そしてお疲れ様でした。

正直言って、大気圏に突入し流星となった「はやぶさ」の写真を見ると涙が出そうになる。



だけど、あんまり「感動した」とか「泣ける」とか言いふらしたくない。別にクールな男を気取るつもりはないけれど、なんだか「マラソン中継のゴールシーンだけ見て感動する人」みたいに安直な感じがしてしまう。これまで「はやぶさ」の打ち上げや「イトカワ」への着陸、そして困難が相次いだ長い帰還のあいだ報じられるニュースを見ては感心したり期待したりちょっぴりがっかりしてきたけれど、有体にいって7年間あいだ私は「はやぶさ」のことを大して気にしてなかった。それなのに、クライマックスのおいしいところだけ横取りして「感動した」「泣いた」とアピールするのは図々しい気がする。今はただ、「はやぶさ」を信じて導き続けたJAXAの人たちに感謝したい。


さて、それはそれとして(「プロゴルファー花」のコーチのまね)。
感動的な「はやぶさ」の帰還に対して熱かったり冷たかったりいろいろな反応がある。

Togetter - まとめ「なぜマスゴミは「はやぶさ」の快挙を伝えないの?ネット民大勝利!!みたいなの」
NHK『はやぶさ』中継せず国民激怒! NHK「さすがに限界かも知れません」 ロケットニュース24(β)
NHKが『はやぶさ』の地球帰還の様子をリアルタイムで放送しなかった件について、NHKがインターネットユーザーたちに激怒されている。コミュニケーションサービス『Twitter』(ツイッター)にNHK公式アカウント(ID: NHK_PR)があるのだが、そこで他のユーザーからボコボコに文句を言われているのである。

[drawr] すこっち - 2010-06-13 12:35:13
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上の二つは「マスコミは『はやぶさ』に冷たすぎるんじゃないか」というもの。そして下の二つは「ネットでは『はやぶさ』が擬人化されて見る者の熱い涙を誘っている」というもの。
一見すると「冷たさ」と「熱さ」で対照的だが、私には一枚のカードの表と裏のように思える。宇宙空間における日陰の極寒と太陽光にあぶられる側の灼熱のように。

どちらも「はやぶさ」が無人機だからこそ起きる現象だ。
マスコミ的には宇宙飛行士が乗った有人機のほうがずっと「絵になる」。野口さんや山崎さんのようなわかりやすいヒーローやヒロインがいてくれたら、感動的な人間ドラマで視聴者や読者の興味を大いに盛り上げることができる。だが無人機の場合はなかなか難しい。小惑星探査機という視聴者・読者が見たこともない「モノ」に興味をひきつけるのは面倒である。「かぐや」の場合は馴染み深い月のクローズアップ映像を送ってきたことで親しみがわくが、「はやぶさ」が訪れた小惑星「イトカワ」は高性能の望遠鏡を持つ天文ファンであっても見ることさえ困難だ。
(…と、ここまで書いて14日の報道ステーションを見たら、冒頭から10分以上を割いて「はやぶさ」の偉業を称えていた。なんだ、ちっとも冷たくないじゃん。まあ、感動の渦に飲み込まれた人たちからすれば物足りないだろうし、仮に「日本独自の有人宇宙船」だったとしたら「はやぶさ」の何倍、何十倍も熱い報道がなされたと思うけれど)

逆に、オタク的想像力が豊かな人たちにとって無人機であることがかえって便利だ。
人間の顔がないぶん、空想美少女の姿を重ね合わせる「萌え」擬人化がやりやすい。すでにこんなフィギュアさえ作られている。

ねとらぼ:お帰り、はやぶさたん! 擬人化フィギュア発売 - ITmedia News
 「一生に一回の“お使い”を終え、地球に帰ってくるはやぶさたんを、みんなで祝福しようではありませんか」――青島文化教材社は、6月13日に地球に帰還する予定の小惑星探査機「はやぶさ」擬人化キャラをモチーフにした「擬人化フィギュア はやぶさたん」を10月に発売する。



 人工衛星を萌えキャラ化して紹介する書籍「現代萌衛星図鑑」に登場する、はやぶさ擬人化キャラがモチーフで、青い髪に黄色い服を着た女の子が、背中に太陽電池パドル、イオンエンジン、サンプラーガン、各種センサーを背負っている。高さは約14センチ。同書著者のしきしまふげんさんが商品化に協力した。

いやはやなんとも。

私自身はというと、「無人機だと盛り上がらない」という(?)マスコミにも「萌えキャラ化」大好きな人たちにも「何だかな」と感じる。わかりやすい人間ドラマを求めたり擬人化しないと「はやぶさ」の偉業に感動できないのだろうか。
…これまで大して関心なかったくせに偉そうなこと言ってごめんなさい。

「はやぶさたん」のような擬人化(萌えキャラ化)を見ると、ハリウッド映画の「なんでも恋愛映画化」を連想してしまう。アカデミー賞を取った「タイタニック」とかラズベリー賞にノミネートされた「パール・ハーバー」とか。最近では「アバター」(未見)も異星人との恋愛が描かれてるらしい。うへえ。
船が大好きで恋愛映画が苦手なタモリは、「タイタニック」を劇場で見ずDVDで恋愛パートを全部飛ばして見たそうだ。その気持はよくわかる。私も伝説的な客船の勇姿と悲劇を期待して「タイタニック」を見に行ったらつまらない恋愛話ばかりなので睡魔に襲われたクチだ。ディカプリオも太めのおねーちゃんもどうでもいいからもっと船を見せろ!ブリッジを、機関室を写せ!と心の中で悪態をついたものである。

そう、私は「わかりやすい人間ドラマ」や「萌えキャラ」よりも、メカそのものや歴史的な事件のほうが好きなのである。
「人間ドラマ」「萌えキャラ」が多くの人に受け入れられ喜ばれていることは認めるけれど、食べ物で言えば甘味や脂肪分、化学調味料のように画一的でジャンキーな味付けみたいだ。「はやぶさ」の帰還は世界に誇れるすばらしい偉業なのだから、そのまま鑑賞し感動したほうがいい。ひとさまの好みに口出しするようで気が引けるが、どうしてもそう思ってしまうのだった。


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